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ただ僕は。

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友人と別れ、家に着いた。ベッドに脱ぎ捨ててあった部屋着のスエットに着替えようとズボンを脱ぎかけた時、ポケットにねじ込んだ名刺がひらりと床に落ちた。
そういえば二枚あったっけ。ポケットに手を突っ込み取り出した。

ひとりになってみると なんだか気になる。
進学も決まっていたし、その為に実家を離れることも考えていた。
いっそ連絡してみるのも選択の一つではないだろうか?などと その時は無謀な勢いがあったに違いない。時計を見ると深夜に差し掛かる。少しは悩みましたってところも必要かと 手にした携帯電話を置いた。
そして、翌日の昼を過ぎた頃、僕は電話を掛けた。
連絡先を受け取った順。なんて律儀な考えはなかったが、初めの連絡先は繋がらなかった。
次に 男女で現れたほうの連絡先。美し気な声の女性の応対に緊張した。
「このままお待ちくださいませ。お電話お回し致します」
受付嬢だろうか? 照れくさくて電話を切ってしまった。
何もしていないのに ため息が出た。ベッドに携帯電話と名刺を放ると名刺が裏返り、手書きの電話番号が書かれていた。おそらく、男性の個人の番号だと思った僕は、これが最後と掛けてみた。直ぐに通じた電話。徐々に会話が続き 僕は 今に至る切符と確約を結んだのだ。

短期間で決めた事ではあったが、両親は 激しい反対もなく僕を送り出した。
いつも味方の母親。派手なことはしないが 趣味を楽しむ父親は穏やかな人だ。
4歳年下の妹は、僕の話を興味深く聞いてくれる優しい子だ。
そして、僕は、この家族が大切な場所であることは変わらない。

僕は、桜の樹がすっかり青々とした葉を茂らせた頃、実家を離れ、事務所に所属して活動の基本となるレッスンを受けることとなった。
毎日が 動いていた。
何をしようか?と迷うこともないほど 行動するたび楽しみが増えていく。増える楽しみは、重なって広がって、形になっていくのが面白かった。
『今日は疲れたよ。でも、覚えられたことが嬉しいんだ』
高校生になって、スマートフォンを買ってもらえた妹とLINE(ライン)をして報告した。

そして、オーディションも受けることを勧められ、僕は一つの役をもらうことができた。
その時の妹とのLINEは終わることがなかなかできずに 目がシバシバ乾いてしまったほどだ。

作品名:ただ僕は。 作家名:甜茶