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フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

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#13.罠・セントヘレナ




神戸市街地
通りで拾ったタクシーの運転手に“セントヘレナ病院”と行先を告げる鈴木。

セントへレナ記念病院
病院の建物が見おろせる丘陵地に並ぶ車列。
一台の装甲車の前に立つ枢木。
枢木に報告に現れる隊員A。

隊員A 「入院患者の移送並びに病院関係者の退避がほぼ完了しました。あとは受付の職員と残るのは佐原優里のみです」
枢木  「わかった。ご苦労」

鈴木を乗せたタクシーが病院正面玄関に到着する。
受付の職員が緊張の面持ちで鈴木に目で挨拶をする。
普段と変わりなく見えるロビーだが、どこか違和感を覚える鈴木。
鈴木がエレベーターの行き先ボタンを押す。
エレベーターの扉が閉まる。
受付にいた職員が、自衛隊員に屋外に連れ出される。
最上階でエレベーターの扉が開く。
鈴木がエレベーターからおりる。
廊下の照明が消えている。
廊下に人影はない。
ドアが開け放たれた病室に、まったく患者はいない。
優里の病室のドアを開く鈴木。
空のベッド。
病室に優里がいないことを確認する鈴木。
階上でヘリコプターのプロペラ回転音がする。
屋内階段を駆けあがり屋上のドアを開く鈴木。
眠る優里が車椅子ごとヘリコプターに乗せられる。
そして、まさに飛び立つ瞬間である。



神戸市街地
南京町の祠で空になった洋菓子店の紙袋を見つめる湊。
捜査員Aが現れる。

湊   「どうだ? 鈴木は見つかったか」
捜査員A「未だ、発見に至らず、です。ただ・・・」
湊   「ただ、どうした?」
捜査員A「セントへレナ記念病院で、患者、職員が全員建物から避難していると・・・」



セントへレナ記念病院
玄関車寄せに自衛隊のジープが停まる。
運転していた隊員Aによって後部ドアが開かれる。
後部席には遠藤と永井。

永井  「心苦しいが・・・」
遠藤  「必ず説得してみせます」

助手席の枢木が後部座席を振り返って言う。

枢木  「猶予は5分です。いいですね、遠藤監査官」
遠藤  「はい」

ジープを降りる遠藤。
遠藤が着ているジャケットの下は十数本のC4爆弾が仕込まれたベスト。


屋上
優里を乗せたヘリコプターは上空高く舞いあがっている。
悔しい表情でヘリコプターを見送るしかない鈴木。
屋上階段を駆けおりる鈴木。
最上階のエレベーターホール。
エレベーターのボタンを押すが通電していない。
諦めて屋内階段を使う鈴木。
階段を駆けおり吹き抜け2階廊下に出る鈴木。
非常灯のみで暗い2階廊下をエントランスのほうに走る鈴木。
廊下の先エントランスホールバルコニー。
人が立っているのを見て歩を緩める鈴木。
外光を背にして立つ遠藤。
暗い廊下から光の届く場所まで歩く鈴木。
遠藤と対峙する鈴木。

遠藤  「トモか」
鈴木  「いやだなぁ、遠藤さん。鈴木ですよ」
遠藤  「もう一度、訊く。友也か」
鈴木  「鈴木ですよ、遠藤さん。ちょっと佐原優里の様子を見にきただけです」
遠藤  「鈴木刑事は僕のことを、さんづけで呼んだことはない」
鈴木  「失礼しました、遠藤監査官」
遠藤  「友也は、間違っても、人を傷つけるような人間じゃなかった。なのに、どうしてだ?」
鈴木  「すみません、急いでいますので」
遠藤  「まだ、恨んでいるのか、トモ・・・」
鈴木  「??」
遠藤  「母さんの通夜にも葬式にも出なかったこと・・・」

鈴木の表情から柔らかさが消え、上目遣いで遠藤を睨みつける鈴木。

鈴木  「・・・当たり前だ・・・」
遠藤  「すまないと思っている。後悔もしている」
鈴木  「俺に兄弟はいない。あのときそう思った」
遠藤  「仕方ないだろう」
鈴木  「あんた、いつもそうだ。人の言いなりだ。自分の頭で考えるってことはないのか。ここ(自分の左胸を指す)で動くってことはないのか」
遠藤  「選択の余地はなかった」
鈴木  「いい訳は聞きたくない。そこをどいてくれ」
遠藤  「ここを通すわけにはいかない」
鈴木  「どけ!」

拳銃を遠藤に向ける鈴木。
遠藤は自らが爆薬を仕込んだベストを身につけていることを鈴木に見せる。
ベストと配線で繋がっているタイマーが3分を切る。

遠藤  「ひとりで出て行けば、お前は殺される。トモ、お前は僕より頭のいい男だ。いま、お前がどういう状況かはわかるな」
鈴木  「まともじゃない」
遠藤  「そう、身体に爆弾を巻きつけた兄。その兄に拳銃を突きつけている弟。しかもその弟は他人の姿形をしている。まともじゃない。だから、みんなで、まともな状態に戻るんだ」
鈴木  「だめだ。できない」
遠藤  「頼む。警察病院に行って、その身体を無傷のまま鈴木に返せ」
鈴木  「できない。できるわけないだろう。ベッドの上で目を閉じれば、激しい痛みと絶望感と死の恐怖。それが、延々と続くんだ」
遠藤  「つらいのはわかる。お前の面倒はトモ、僕が必ず見る」
鈴木  「あんたの世話にはならない」
遠藤  「ここでの会話は、モニターされている。約束は守る。一緒に、出て行くんだ。お前がうんと言わない限り、ふたりとも、ここで死ぬことになるぞ。いいのか」
鈴木  「俺は死なない」
遠藤  「トモ、治療を受けろ。お前は必ず治る。兄の言うことを信じてくれ。そして、終わらせよう。この悪夢をおしまいにしよう」
鈴木  「悪夢?(溜息をつく)・・・悪い夢だっていうのか・・・」

頷く遠藤。
脱力し拳銃をそっとおろす鈴木。
静かに遠藤に歩み寄る鈴木。

遠藤  「トモ・・・」

教会の鐘の音がどこからか、かすかに響く。
差し伸べた遠藤の手首を素早く掴む鈴木。
腰から外した手錠を遠藤に掛ける鈴木。
手錠のもう一方がバルコニーの手すりにつなぐ鈴木。

遠藤  「トモ、何のマネだ」
鈴木  「聞こえるんだ。俺には・・・」

拳銃を手に階段を一階に降りる鈴木。

鈴木  「(振り向いて)兄さん、これは夢なんかじゃない」

遠くで教会の鐘が鳴っている。

遠藤  「トモ! (襟のピンマイクに向かって)本部応答願います!」

階段を降り、裏口通路から逃げようとする鈴木。
裏口のすりガラス越しに動く迷彩柄の人影。
踵を返し夜間通用口へ向かう。
そちらにも退出を妨げる銃器を持つ人影。
舌打ちし、ロビーを渡り正面入り口に向かう鈴木。
眼下に鈴木の姿を認める遠藤。

遠藤  「行くな! トモ!」
遠藤  「(ピンマイクに)小森友也を撃たないでください。まだ子供なんです。どうか撃たないでください」

正面入り口を出て陽が当たる玄関広場に進み出る鈴木。
上着に、赤いレーザーポインターの斑点がいくつもできる。
病院から数百メートル離れた4方向に配置された狙撃手。
ビルの屋上や車上から狙撃態勢をとる狙撃手たち。
病院から五百メートル離れた規制線のある道路には警察車両や自衛隊車両が並ぶ。
会話を傍受する自衛隊の機材車の横には、氏家が乗る政府公用車が停まっている。

氏家  「(車内の電話で)はい、現場での全責任は私が負います、総理」

薄笑いを浮かべて両手をあげる鈴木。
氏家が車内電話の受話器を静かに置く。
警察車両車内後部座席では永井が目を閉じて鎮座している。