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フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

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#11.封印




摩耶大学・天根研究室
デジタル時計が16:00を示す。
変化がなく、モニタールームに張りつめた空気。
モニタールームにふたつの立体脳磁図がホログラムで浮かびあがっている。

天根  「(佐伯に)コイルの方向の調整を。それからエントロピー比率を最大限に。同調ポイントを探すんだ」
佐伯  「はい、博士」

実験の行方をじっと見守る八津川、平松、遠藤。
一方の立体脳磁図の発光が頻繁になる。
ディスプレイに表示された数値や波形を熱心に見つめる佐伯。
ノートPCに目を移しキーボードを叩く佐伯。
青白い光が室内に一閃し、立体脳磁図が消える。 
モニタールームの小窓から見える井上と高橋の眼は閉じられたまま、椅子の背にもたれている。

天根  「どうした、佐伯くん?」
佐伯  「わかりません。今調べます」
天根  「(マイクに向かって)井上さん、聞こえますか?」

井上からの返事はない。
佐伯がPCのキーボードを叩くと、脳磁図のホログラムが再び立ち上がる。

佐伯  「(数値と脳磁図を見比べながら)そんな、まさか・・・」
天根  「何が起きた? もしかして・・・」
佐伯  「(マイクに向かって)高橋さん、井上さん?」

シールドルームからの返答はない。

天根  「佐伯くん、脳波とバイタルのチェックを」
佐伯  「はい」

天根がマイクを持ち、呼びかける。

天根  「井上さん! 高橋さん!」

井上の立体脳磁図が部分的に赤味を帯び活発に色を変える
高橋の立体脳磁図は灰色に支配されていく

天根  「聴こえますか、高橋さん? もし聴こえていたら、右手を挙げてください」

井上がシールドルームの小窓越しに右手を挙げる。

天根  「どういうことだ・・・」
井上  「・・・高橋です。・・・声が変だ・・・」
佐伯  「逆です。予定していたのと逆方向にトランシングが・・・」
天根  「そんな・・・。あり得ない・・・」
佐伯  「教授、高橋さんの心停止が20秒を超えました」
天根  「蘇生だ。大至急」
佐伯  「薬液を投与します」

高橋の手の甲の血管に繋がっている細いチューブに薬液が充填される。
フラットだった高橋の拍動の波形が再び波うち始める。
佐伯がモニターを見て拳を握りしめる。
ほっと胸をなでおろす政岡。

佐伯  「天根博士・・・」
天根  「佐伯くん、やったね。但し書き付きだが、とりあえずは成功だ」
遠藤  「(隣席の政岡に)成功なんですか? 何だか井上さんが小芝居をしているとしか思えませんが・・・、もしくは暗示にかかっている・・・」
政岡  「ハイパーメグの前では、人は嘘をつけません。嘘をつくとすぐ脳波に表れるからです。暗示にかかっていても、そう。逆に真実を言うときにも個人特有の脳波が表れる。今まさにそれを確認したのです」
遠藤  「本人だと確かめるための質問とかは・・・」
佐伯  「(観覧席を振り返り)必要はありません、まったく。あらかじめモニターしてある高橋さんの活動期の脳磁図を井上さんの脳磁図と照合により判定します。(PC画面の変化する数値が止まる)出ました。99.89%一致」

拍手をする平松。
つられて八津川も気のない拍手を送る。
資料を手に佐伯の後ろに立つ平松。

平松  「佐伯先生、現在の高橋さんの脳磁図をアップしてもらっていいかしら?」

高橋の立体脳磁図がホログラムで空間に浮かびあがる。
全体的に白っぽくきわめて活動の薄い立体画像。

佐伯  「生命維持活動が延髄系に移行しています。完全なゾンビ状態です」
平松  「初めて見るわ。こんな脳磁図」
佐伯  「・・・私もです、学長」
平松  「ありがとう、佐伯先生」

天根に握手を求める平松。

平松  「おめでとうございます、博士」
天根  「学長、まだ、実験は終わっていません」
平松  「十分ですわ」

研究室を出ていく平松、八津川。

政岡  「これがトランシングです、遠藤さん」
遠藤  「到底、信じられない」
政岡  「信じる、信じないの問題ではありません。事実なのです」
遠藤  「実験段階なのでしょう?」
政岡  「これは作為的な実験。世の中には意図せずトランシング現象に巻き込まれる人が大勢いる。その事実を知ってもらいたいの。馬場くんのケース、調べ直していただけませんか?」
遠藤  「難しいと思いますよ、いろいろ」
政岡  「あの、馬場くんにトランシングした人物の見当ならつきます」
遠藤  「?・・・」
政岡  「馬場くんが警護していたという、病室の患者」
遠藤  「・・・えっ?」
政岡  「小森友也・・・」

研究室のすぐ外で遠藤と政岡の会話に聞き耳をたてる平松。



市役所警備室
防犯カメラの記録画像を見る湊。
鈴木淳刑事らしき人物の行動に頭を抱える湊。
捜査員Aが入ってくる。

捜査員A「鈴木刑事に、ほぼ間違いありません。何人かの職員の証言で、鈴木刑事が唐津の後頭部に拳銃を突きつけて、非常階段をのぼっていったと・・・」
湊   「鈴木・・・。なんでだ?」

携帯電話の電話帳から鈴木をリストアップして電話をかける湊。
再生された監視モニター画面、鈴木の顔が大映しになる。



ショッピングモール
市役所から程近い海岸に面したショッピングモール。
ティーンズ向け婦人服店をチェックしながら歩く鈴木
海に突き出したデッキの手すりにもたれて頭の中を整理する鈴木。
セントヘレナ記念病院で眠る優里を想い出す鈴木。
目を閉じて今しがた起きた市役所での出来事を回想する鈴木。

千晶  「なんか違う名前で呼ばれて、気持ち悪いんだわ」
唐津  「あなた、優里さんですよね。佐原優里さん」
首を振る千晶の不安に満ちた目。
唐津  「整形でもしたのかなぁ?」
千晶  「違います。あたしは・・・」
唐津  「僕が逮捕されたら証言しようと、いまは別人になりすましている」

鈴木のスーツの内ポケットが鳴動する。
ポケットからスマートフォンを取りだす鈴木。
待ち受け画面は妊娠している妻と鈴木の2ショット写真。
幸せそうな笑顔のふたり。
画面上部に電話アイコン。
“湊警部から電話”のテキストメッセージ。

鈴木  「・・・湊さん・・・(電話アイコンをタップする)」

通話が始まる
(電話)
湊   「俺だ、鈴木。今どこにいる? 返事をしろ!」

湊の声をひとしきり聴き、返答しないまま通話を切る鈴木。
待ち受け画面のスマートフォンを強く握りしめたあと、力を緩める鈴木。
鈴木の手から携帯電話が滑り落ちる。
海面に落ち小さな飛沫たてて沈むスマートフォン。
その光景を見ないまま海に背を向けて市街地に向かう鈴木。


摩耶市街地
千晶の捜索を続ける和田。
和田の携帯電話が鳴る。
昭吉からの電話に出る和田。

昭吉  「まだ見つからんのか、和田?」
和田  「申し訳ございません。懸命に探しておるのですが・・・」
昭吉  「この役立たずが」
和田  「あいすみません」
昭吉  「しかし困った子だ。どうしたものかなぁ」
和田  「必ずや捜しだしてお家にお連れいたします・・・」
昭吉  「当たり前だ、もっとよく捜せ」
和田  「はい」

佐原昭吉宅