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時計仕掛けの青リンゴ


 
マリー「勝手ながら、同僚の科学者が所属する委員会に資料を公開した。ハーバードで最も有名な思想家達だ」
カジンスキー「光栄です。(学者達に)おはようございます」
マリー「残念ながら、彼らの結論は一致していたよ。君の意見の大部分は独創性がなく、陳腐で、未熟であると。それ以外の部分は明らかにバカげているとね」
カジンスキー「えっと、教授。説明ならもっとできますが……」
マリー「最後のセッションの映像を見てみよう。彼らの所見を説明する」
(スクリーンに映像が投影。カジンスキーの顔がアップで映し出される)
映像のカジンスキー「産業テクノロジー社会は、個人の自由とは相容れないものだと基本的に感じます。人が自由になるには、それを崩壊させ、より原始的な社会に戻す必要があります」
マリー「君の意見は中途半端で分別がなく、ジャック・エリュールの模倣だという評価だ。君は自主性について語っているが、すべて大衆向けに出版された三流思想家の本の受け売りだとね」
カジンスキー「ええと、ぼくはそんなことを言っていません。ぼくの――」
学者A「待ちたまえ、ここからが最高だ!」
映像のカジンスキー「テクノロジーと社会構造のせいで、わたし達人間は受け身になり、やる気を失い……」
マリー「ガッカリな自己正当化だ。石器時代に生まれてさえいれば有名になっていただろうにな。責めるべきは、自分自身の未熟さではないか?」
カジンスキー「ですが、それってとても……」
マリー「平凡な数学者が、ただただ自分自身の失敗を正当化しようとしてるだけじゃないのかね。『いや、システム全体が完全にイカレてるに違いない』。だって君は、誰よりも知覚が鋭い人間だ。そうだろ?」
映像のカジンスキー「ぼく達は、不自然なものを取り除いて、自然に戻る必要があります」
マリー「社会が崩壊したらチャンスなどないだろう。気味悪く、ちっぽけで、つまらない君には!」
学者A「ケツに何か突っ込まれて、10分後には犬のエサになるだろう!」
学者B「それも楽しむんじゃないか?」
マリー「こらこらよしてくれ。セオドアのSM趣味については、触れるなと言ったはずだぞ。そんなの卑怯だ」
映像のカジンスキー「人々はぼくを見て尊敬し、ぼくの考えが正しいとわかってくれて、世界の支配者にしてくれるでしょう」
 
画像:マンハント番組タイトル マンハント:謎の連続爆弾魔ユナボマー第6話
 
さて前回は、グリ森事件は〈劇場型犯罪〉と言うよりもプロレスだ、という話だったね。そんなわけでおれは今後、あの事件についてのおれの考えを、
 
 
     〈プロレス説〉
 
 
と呼ぶことにしよう。おれはこれから〈グリコ・森永事件プロレス説〉を提唱する。あの事件はプロレスだった。〈食品会社軍団〉対〈かい人21面相〉の大プロレス興行であり、〈劇場型犯罪〉と言えば確かにそうなのだが、〈プロレス型犯罪〉と呼ぶのがより適切だった。前代未聞で空前絶後。他に類がなく唯一無二で、世にも珍しく珍奇で奇抜。それが真相だったというわけなのですよお客さん!
 
そのプロレス犯罪で、〈彼ら〉はヒールの側にまわった。ヒールがいてこそ力動山も、馬場も猪木も善玉になれるわけなのである。つまりグリコが力道山で、馬場が森永で猪木が丸大食品だった。腕白でもいい。たくましく育ってほしい。ボンバーエ。真の標的は子供だが、子供達は〈プロレス型犯罪〉のリングを囲む観客である。みんなが好きな善玉企業に声援を送る観客なのだ。頑張れグリコ、負けるな森永、ヤングマン! 秀樹と一緒にバーモントカレーのハウス食品を応援しよう。そうさワーイ、MCA! ワーイ、MCA!
 
というのがおれの考えるあの事件の真相である。悪党人生おもろいで。こんなことができるんだから、彼らとしては悪役側で全然かまわなかったのだ。
 
そしてまんまと企業から何億円かのカネをせしめれば彼らの勝ちだ。勝ちだが、最初の江崎勝久氏誘拐の時点でその気はまったくなかった。このときは一回限りの草試合のつもり。十億プラス金塊というのは「用意できるはずない」と考えた額であり、だから指定の受け渡し場所に行くことすらなかったのだが、〈興行〉に転じてからは目的が変わる。
 
そんな話だったのだが、しかし聡明な人間でない、つまり物事や人情などに対する判断力や洞察力にすぐれていない、
 
画像:加藤譲(肉付けしたいという思いで)この野郎とか、この野郎とか、画像:四方修(地元の警察が動くような犯罪捜査力を)
 
いったやつらのせいで話がおかしな方向に進み、さらに、
 
画像:大阪府警刑事部長 もしくは勝手に開けて食べられたらえらいことやしね 森永物流部長
 
こんなおっさんどもが慣れないテレビに映ったばかりに2001年宇宙の旅して人間でないものへと変わり、〈新世界の神〉となった。真のテロリストはこのおっさんどもであり、『デスノート』の夜神ライトをとっつぁん化したものだったのだ。
 
社会を恐怖で包み込んだ真の犯人はテクノロジーだ。SONYのベータカム・ビデオカメラ。こいつの中にあるものこそ、死神リュークの〈デスノート〉を磁気テープにしたものだった。レンズを向けた気味悪く、ちっぽけで、つまらないおっさんどもにチャンスを与える。世界の中心で〈I(アイ)〉を叫ぶチャンスだ。私は、新世界の神だ。私の言葉は神の言葉だ。人々は私を見て尊敬し、私の考えが正しいとわかってくれて、世界の支配者にしてくれるだろう。精魂込めて作ったのがこんなふうにねえ、もう、廃棄されるなんてことは見ていられないですよね。もしくは勝手に開けて食べられたらえらいことやしね。
 
しかしテクノロジーがなければ人は下水道もなく、洗濯機もないがゆえにタライと洗濯板でもって服を洗う生活に戻らなければならなくなる。そこでは女は奴隷にされるし、綿を栽培して黒人に摘ませ、糸を紡いで布を織ってゴム底の運動靴を造るのだって不可能になってしまうのだから、それがわからぬ大衆向けの、
 
アフェリエイト:知らないと恥をかく世界の大問題11 グローバリズムのその先
  
たとえばこんな本を出す三流思想家の言葉に頷き、
 
   *
 
「ほら。思ってたよりわたしも結構マトモだったでしょ?」
 
画像:マンハント番組タイトル マンハント:謎の連続爆弾魔ユナボマー第6話
 
なんて簡単に言っちゃうバカを図書館員にするべきでない。
 
ユナボマーの声明文が新聞に掲載されたのが1995年9月か。Windows95の発売はその前だったか後だったか、どっちにしても時代はまだインターネットの黎明期だよな。そんな時代にテレサってのは、待ちきれなくてFBIのウェブサイトで読んだという。たぶんその通信料は、新聞一部買うよりも高くついたりしたんじゃないのか。
 
ユナボマーの声明文はえらく長いものだという。そして読みにくいものだという。栗山千明の番組によれば、
 
画像:ダークサイドミステリー「ユナボマー」より56ページ35000語
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之