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マンハント:謎の辞書編纂者新解さん


 
テレサ「待ちきれなくて今朝読んじゃった。FBIのウェブサイトで全部。犯人が高学歴で知性ある人物なのは明らかよ。言ってることの大半は理解できるもの」
カジンスキー「連続爆弾魔に共感してるのかい? 気をつけないと。FBIから取り調べを受けるかも」
テレサ「新聞を大量に取り寄せたの。読みたい人は順番待ち」
カジンスキー「どうして」
テレサ「読むには申し込みが必要でね。えっと、ニューヨーク・タイムスによると、犯人は象徴となる標的を選んでいた。声明文に出てくる分野。たとえば、環境、コンピュータ、遺伝子。爆弾を送る相手は犯人が主張するものの象徴だった。ロバート・ライトは、『わたし達の中にはユナボマーに似たところがある。彼のような手段は取らないが、不満には共感できる』と言ってる。これ見て。ニューヨーク・タイムスの記事よ。《声明文の第一項は、アメリカ国民にとって重要で、我が国の政治的課題の中心に置かれるべき》。第一項の内容は忘れたけど……」
カジンスキー「《産業革命とその結果は、我々人類にとって災難であった》」
テレサ「ほら。思ってたよりわたしも結構マトモだったでしょ?」
 
画像:マンハント番組タイトル マンハント:謎の連続爆弾魔ユナボマー第6話
 
運動会の三等は、ちょっと頑張れば獲れそうに思える。宝くじの三等は、列に並んで買う人間を騙すための罠である。数寄屋橋の列に並んで宝くじを買う人間は、池袋の石代蘭(いしだい・らん)さんに三等百万円が当たったという話を聞くと、それはすなわち自分に一等一億円が当たることだと考える。
 
「だってそうだろ。池袋のイシダイランに三等百万が当たるってことは、オレが買ったら一等一億必ず当たるっていうことじゃんかよ!」
 
と。こういうのをトートロジー、同語反復と言って聡明な人間が使う言葉の用法ではないと辞書には書かれている。
 
と思う。とにかく、そう考える人間にそう考えさせるための罠だ。液晶テレビは『2001年宇宙の旅』のモノリスがウイルスのように変異・増殖してあらゆる家庭に入り込んだものであり、宇宙人だとひとめでわかる池上彰がそこに映って、
 
「イランでは何万人も人が死んでいるんですよ! イランでは何万人も新型コロナウイルスによって死んでいます。イランで何万も死んでるってことは、〈波〉が来たならば日本では何千万も死ぬってことです。わかりますよね。それがおわかりになりますよね! だから手洗い、手洗いなんです。手洗い励行、手洗い励行!」
 
と叫んでる。その顔を見れば、
 
《やったぞ。これですべてが終わったときに、オレが日本の一億と、世界人類すべてを救った者となる人間だ》
 
と書いてあるのが読み取れる。
 
アフェリエイト:池上彰『コロナウイルスの終息は撲滅でなく共存』
 
 
 
「わたしは池上彰ではなくプロファイラーです」
 
 
 
池上彰も自分がそうとは思っていないよ。フィッツ。NHKのBSがな、この我々の出演ドラマが日本でCS放送されているのを当て込んだのかなんか知らんが、『ダークサイドミステリー』ってので、
 
画像:ダークサイドミステリー番組表
 
こんなのをやりおって、わたしは初回を見てみたんだがつまらなかったのですぐ消したんだ(初回は5月6日)。でもこいつを書くために再放送をしょうがなく録画し直したんだが、見ろ。ユナボマーの声明文が載った新聞を読んだ一般市民の話なんだが、
 
画像:ダークサイドミステリー「ユナボマー」より(読んだ人たちが)(面白い内容では)
 
こんなこと言いおった。聡明だって? 意味をわかって使ってんのか。いいか〈聡明〉ってのはな、フィッツ。わたしが持ってる三省堂の『新明解国語辞典・第五版』によればだ、
 
   *
 
そうめい【聡明】物事や人情などに対する判断力・洞察力にすぐれ、自分の置かれている環境で第一になすべき事を十分に自覚している様子。
 
アフェリエイト:新明解国語辞典
 
こう書いてある。この辞書についてはまあいろいろと言うやつがいるようだが、しかし、
 
アフェリエイト:新解さんの謎
 
ゲンペーさんの言われた通り、こういう語になるとほんとすげーな。他の大抵の辞書で〈聡明〉は、
 
 
そうめい【聡明】早口でしゃべる人。
 
 
とでも書いてあるんじゃないかという気がするが。
 
NHKの『ダークサイドミステリー』なんて、何度か見たがどれもくだらん。特に栗山千明と三人の学者がああだこうだと具にもつかない駄弁りをするところなど、おれは全部早送りしてただの一度もまともに見たことがない。栗山千明は海外ドラマ『マンハント:謎のなんだっけユナボマー』で、爆弾魔T・カジンスキーが通う町の図書館員テレサだ。
 
「ほら。思ってたよりわたしも結構マトモだったでしょ?」
 
と言う。いや、おれに言わせたら、お前なんかマトモじゃねえよ。
 
自分では利口と思ってる利口バカだ。ユナボマーの声明文が掲載された新聞を何十部も買い込んで、町の人々に順番で読ます。読ませるな。そんなことに税金を使うな。一部だけ買いそこだけコピーすりゃいいだろ。それを読もうとするやつは、そのページを読むことだけが目当てなんだったらよ。
 
「読みたければコピー代10セントお支払いを」
 
と言えっていうんだ。FBIのウェブサイトで全文読めるもんならば、それをプリントしてもいいだろ。なんで新聞を買わなきゃならない。しかし、どれにしたって全部著作権の侵害じゃないのか。
 
町にタダ読み人間が何百人かいるからと言って、その便宜を図る必要がどこにあるのか。宝くじの一等を当てたい人間がいるからと言って、全部のくじを一等一億の当たりにするようなもんじゃないのか。図書館が本を何冊も買い込んで予約する者に順番待ちで貸し出すようなことをするから、おれは今の世の中で紙の本を出す作家にはなりたくないんだ。図書館革命とブックオフは、人類にとって災難であった。これは日本国民にとって重要で、政治的課題の中心に置かれるべきとおれは言う。第一項の内容を忘れてるのに第一項が重要という話に頷くような女を図書館員にしておくのは、もってのほかとおれは言う。けれどその昔、一度だけ買った宝くじを抽選の日に破る前に、おれはこないだ書いたのと別に考えたことがあった。
 
もちろん、当選番号を見るためだけに新聞を一部買うことと、それはあまりにバカバカしいから図書館に行って見ることだ。図書館で見るならタダだ。タダだけど、おれはやっぱり考えた末に券を破ることを選んだ。
 
いずれにしてもあさましい行為であると考えたからだ。ひょっとしたら三等くらい当たっていたかもわからない。それどころか一等が当たっていたかもわからない。もちろんそうだが、後悔はないし、その後に『もしも』と思い悩んだこともない。ついこないだにここでそれについて書くまで、思い出したこともなかった。
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之