小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

端数報告3

INDEX|51ページ/65ページ|

次のページ前のページ
 

それも近所のスーパーで


 
司法長官「それで、わたし達はどのような立場を取るべきだと?」
アッカーマン「今回、新聞に掲載するのは、テロリストの言いなりになるからではありません。彼の計画を利用したいからなんです。実行すれば、テロに屈する弱さでなく、テロへの警戒姿勢を示せるでしょう」
司法長官「捕まえられたらね」
アッカーマン「ええそうです。もちろん」
司法長官「大きな賭けよ。フリー長官、FBI本部としてはどうなの」
フリー「主任捜査官(アッカーマン)はFBI史上最大規模の監視作戦の提案を買って出ました。我々は、彼にこの作戦を主導させることに賛成です」
司法長官「ドン(アッカーマン)、もうすぐあなたは停年よ。失敗が何を意味するかわかってるわね。それでもやる?」
アッカーマン「わたしはこれ以上犠牲者を見たくありませんし、わたしの後任にこの事件を押し付けたくもありません。これが最善策です。危険ですし、他の策もある。でもこれが最善です」
司法長官「あなたは理解してるようだけど、念のため確認しておくわ。ウェイコでの事件で、わたしは死ぬまで自分の判断に悩まされることになった。それにカメラまで向けられると、何もかもが変わってしまうのよ」
アッカーマン「はい。わたしはテレビでなく鏡に映る自分を尊重します」
司法長官「わかった。では司法省は全面的に支持します」
 
画像:マンハント番組タイトル マンハント:謎の連続爆弾魔ユナボマー第四話
 
木星、そして無限の彼方。異星人が置いた今の液晶テレビのような黒い物体に対したときに人は人でないものに変わる。宝くじを買うと人でないものに変わる。テレビカメラを向けられて、マイクを突きつけられたとき、人はその人でなくなってしまう。
 
   *
 
「あー、全くわかりませんがぁ、その線もぉ、捨てられないということですよね? どれも推定の範囲を出ませんがぁ、その線もぉ、捨てるわけにはいかんというゴニョゴニョゴニョ……」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
1984年4月、グリコ社屋放火の際、詰め寄る記者の質問に応えた刑事部長のように。そのときのその記者の顔が、
 
画像:茶色の記者アップ これで、こっちが、画像:加藤譲アップ
 
その15年後、時効成立頃とおぼしき〈ミスター・グリコ 加藤譲〉の顔なのだけど、このふたりは果たして同一人物なのか。
 
というのは今回の本題でなく、またコロナウイルスである。宝くじに狂った人間は最後には、借金しながら何万もナンバーくじを毎週買っては、少しでも当たりに近い券をかざして、
「ホラ見ろ、次はきっと当たる。取り戻して終わりにすることができるんだ!」
とわめき出す。今の〈コロナの禍〉とやらは、その段階に入ってるとこなんじゃねえの。なんて話を書いてきたが。
 
どうもここんとこ毎日毎日、夜の11時50分くらいになると救急車がピーポーと音を鳴らして前の通りを過ぎていく。おれは東京の下町で小さな私鉄の駅近くに住んでるんだが、その後に零時過ぎると静かになって朝まで何も通らなくなる。
 
それがあまりに毎日なんで、なんだろう、厚労省のお達しで、人が死んでるように見せかけるために毎晩、一日の終わりにサイレン鳴らしてその辺をひとまわりしてこいなんて話になってんじゃねえだろうな。そんなことまで疑いたい気分になるが、皆さんがお住まいの町はどうですか。
 
さらにこないだ自転車で裏道を抜けているとパトカーが一台、道端でパトランプを光らせながらしかし休憩でもしてるみたいな感じで止まってたので、おれが通りしな、
「何かあったのかな」
という顔をしてまわりを見てから覗いてやると逃げるみたいに去っていったが、あれもなんなんだろう。緊急事態だということを市民に知らしめるために、サイレン鳴らしてグルグルと町を意味なくまわれという話でやってるとかじゃないのか。
 
帝銀事件の『GHQの捜査中止命令』は、読売新聞の一記者が「権威筋からの命令でね」と言われた話がひとつあるだけ、というのが事の真相だった。だがもし、後で何千という救急車やパトカーのドライバーが「権威筋からのお達しでね」と言われてやったと口々に言うのであれば話は別だ。本当に権威筋からのお達しでやったということになる。日本人にはヨーロッパの十万よりも志村けんひとりの死の方が大きい。おれも例外じゃない。ヨーロッパの十万が宝くじの三等としたら、それより上の二等の当たりが出たのだと錯覚するのも無理はない。次に一等の当たりが出ると思ってしまっても無理はない。だからあの日に店から米が消えたけれど、でもやっぱり翌日には四等だったとみな気づくよな。よっぽどに頭がカラッポでなきゃ。
 
だからすぐ、スーパーの棚に米は戻った。志村けんという人間がそれほどまでに偉大だったという話で、あれより衝撃的なことが起きてないからテレビが今、
「国民の皆さん、落ち着かず、慌てて行動してください。最大級の〈波〉がそこまで迫っています。最低でも一週間ぶんの食料を確保し――」
なんてわめき叫んでいても米なんか買いにいくやつは全然いない。
 
おかげで近所のスーパーじゃ米が店の天井に届きそうになっている。しばらく待ってりゃ半額にならないかなと思いながら見ているのだが、お店はそれで大きな損にもならないだろう。
 
歯磨き、歯ブラシ、ナイロンスポンジ。アルミホイルにサランラップ。タッパーウェアにティッシュペーパー。折り畳み傘。これらはスーパーで安く買える。しかし百年前は違う。
 
昔の人は歯を磨くのに、塩を含んで指でこすっていた。その塩さえも貧しい者は手に入れられぬことがあった。
 
〈スペイン風邪〉で四千万、日本で四十万が死んだと言うが、そんなもの、今と時代が違うだろう。今はそれらの品々に加えて冷蔵庫に洗濯機、アルミサッシの窓だ。かつて女は男の奴隷でしかなかった。冬に井戸の水を汲み、タライに張って洗濯物を手でジャブジャブと洗わされた。
 
女達は風邪で熱があるときにもそうしなければならなかった。当然、年に何万も肺炎になって死んでたはずだ。手洗い励行。手洗い励行。当時の女が今の学者が言うのを聞けば、
 
「一体全体、このなんにも知らないやつらはなんなの」
 
と言うに違いない。
 
彼女達にいま近くのスーパーで安く売ってる洗い物用ゴム手袋をあげたらきっと涙を流して喜ぶだろう。1910年のハレー彗星パニックで自転車用タイヤチューブが金持ちに大売れしたというのだから、〈スペイン風邪〉当時にだってそのくらい、作ってすべての女達に配れもしたに違いない。それをやってりゃその〈禍〉の死者は半分に減らせたんじゃあるまいか。
 
おれはそんな気がするね。だが奴隷の命など主人は気にかけなかっただろう。とにかくマスクを着けることで死を遠ざけようとした。それだけで充分なのだと考えた。今のテレビに映り早口でまくしたてる人間達と同じように。
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之