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端数報告3

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パラドックスは好きですか


 
マックス「あなたは何者でここに何をしに来たのかしら?」
ハント「15万ドルもらいたいんだ」
マックス「ハハ! あきれた。アーハッハ、あなた、本気で、ここに来ればもらえると思ったの?」
ハント「〈ヨブ〉への報酬は12万5千ドルだろ?」
マックス「ううん、話が違うわ。あなたは〈ヨブ〉じゃないんだから。〈ヨブ〉はメッセージに聖書の引用なんか使ったりしないわ。それに、あなたのメッセージの文章は強引で遊び心があったけど〈ヨブ〉に遊び心はない。あなたが〈ヨブ〉だとしたら矛盾があるわね」
ハント「気に入ったかい?」
マックス「何を?」
ハント「矛盾があるところを」
マックス「んっふふふ」
ハント「ところで15万ドルを今日もらいたいんだ」
マックス「あーあー、そんなわけにはいかないわよ」
 
アフェリエイト:ミッションインポッシブル
 
ポツダム宣言の末尾の文句は《迅速にして完全な壊滅のみが日本に残された道》だ。グリ森事件の犯人の最後の手紙の末尾の文句は《悪党人生 おもろいで》。IMF、ミッション・インポッシブル・フォースの指令が最後に告げるのは、
 
《このメッセージは5秒後に消滅する》
 
である。セルフ・ディストラクト・シークエンス・イニシアテッド。自己消滅手順開始、4、3、2……。
 
コロナの自然消滅はサテ始まっているのかどうか。それはともかく、グリ森事件だ。おれはもう何回も前に、放火の後で〈ミスター・グリコ 加藤譲〉が、
 
   *
 
「犯人の動機は、グリコへの怨恨で決まりやろ」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
と言い出し、そして――という話の続きをすぐにも書くようなことを書いておきながら全然していないけれども、ものには手順、シークエンスというものがあんねん。放火の際に大阪府警の刑事部長が他の記者の質問に応えているところに割り込み、
 
画像茶色の記者輪をかけた
 
   *
 
「これまでかなり、そのう、脅迫文でえ、そういうことについてですねえ、今度はまあ、それに輪をかけたもんであるかという、そこらへんの感触は、部長個人としては……」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
と言ったこの男。「これまでかなり、そのう、脅迫文でえ、そういうことについてですねえ」と言うが、それまでの脅迫状にどんなことが書いてあったと言うんだよ、という話を前々回か、その前かさらにその前のログにおれは書きました。
 
今回はその話の続きなので放火の後に行きません。ポツダム宣言第4条、外務省の翻訳で《日本帝国ガ》とあるのは《天皇が》の誤りだろう。《ジ・エンパイア・オブ・ジャパン》であって《ザ・ジャパニーズ・エンパイア》ではないのだから。「帝国国家日本の天皇に決定権はなかった」というのは嘘で何もかも昭和裕仁が決めていた。「お前は神だ」と言われて育ち、それを本気で信じていた幼稚な男の裁定なしに日本は何も決められなかった。天皇は神だ。天皇は神だ。天皇陛下は神様だけどだからイワシの頭とか、神棚の御札と同じものであって、ものを考えることはできない。顔を見ればわかるだろう。中はカラッポで「あ、そう」と言う以外の口は利けないのだ。〈のりと〉というのを唱えさせる生きたからくり人形に過ぎないものなんだから。だから優秀な人間が代わりに決めてあげねばならない。
 
という、みんながみんなそんな錯覚をしているから誤訳が起こり、その後も結局錯覚しっぱなしでいるから誰も気づかずスルーされてる。第4条そのもの自体が、まともに読んだのおれが初めてだったりするのかもしれない。
 
アメ公もアメ公だ。日本人に出す手紙なら日本語で書け、と言いたいが、そんなことが言いたいんじゃなく、〈かい人21面相〉の手紙は文学、脅迫状文学だという話でしたね、前回は。けれどもしかし、凡人にはその高度に文学的な価値がわからず、
 
画像:加藤譲
 
この男の誤った解釈が世に広まった。そんな話でございました。
 
〈ミスター・グリコ 加藤譲〉。茶色い服の記者が若き日のこいつなのかはともかくとして、「これまでかなり、そのう、脅迫文でえ、そういうことについてですねえ」と言ったが放火の二日前、〈毎日〉と〈サンケイ〉の二社に届いた手紙は警察の愚弄に終始し、グリコになんの言及もない。誘拐の時の手紙には、
《けいさつに しらせたら 人質を かならず 殺す》
と書いてあったが勝久氏は殺されなかった。
 
しかし『NHKスペシャル 未解決事件File.01 グリコ・森永事件』という番組はミスグリ加藤の眼を通して事件を語り、運良く脱出できてなければ氏に〈5日目〉はなかったと言わんばかりの描き方をしている。72時間経ってないのに「4日目か」「社長は、もう……」だ。勝久氏の脱出・保護は拉致から65時間後なのだけれど。
 
さらに〈彼ら〉はその12時間かそこら前に姿を消してて、氏はおそらくそのすぐ後にも、逃げようと思えば逃げられた。なのに逃げずに翌日の午後2時までその場にいたのは「逃げたら家族を殺す」と脅されていたからだろうが、いずれは空腹などに耐えかね外に出るしかなくなるのだ。それが〈彼ら〉の狙いであり、その通りにうまくいった。勝久氏がその時間まで頑張ったのはたいしたものと言うところだろう。
 
ってのがおれの考えだ。しかしNHKスペシャルは〈勝久氏が着せられたコートとスキー帽〉という当時のこんな映像を見せて、
 
画像:トレンチコート スキー帽
 
   *
 
ナレーション「犯人は多くの遺留品を残したが、その捜査も難航した」
当時の大阪府警捜査一課長「大量生産・大量消費ですから、特定の持っている方を探す難しさ。さらにそれから犯人まで絞り込んでいく難しさですね。そういうものが結局……」
ナレーション「脅迫状を打ったタイプライターも大量生産されたもので、持ち主の特定は困難を極めた」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
なんてことを言う。そんな話も結構だが、これらのものを着せられていたおかげで勝久氏はハダカで拉致されながら寒さをしのげたことにちょっとは着目してはどうなのか。
 
ハダカのままでは脱出も難しくなったはずだ。犯人達はわざわざ氏が逃げやすくしてやってたことにならんか。生還後の会見で「犯人らの顔を見たか」と尋ねられ、
 
画像:江崎勝久氏(顔は覆面をかぶっていましたから)
 
と応えているようだが、《覆面を被っていた》というのは自分がこのスキー帽を被らされてたという意味なのか。まあ深く被せれば眼を覆えそうでもあるが、縫い目越しに外が見えそう。
 
ちょっとしたことで脱げそうで、目隠しとして充分なものになりそうに見えない。やはり犯人らの方がずっと覆面していたようにも聞こえるが、ならばこれも妙だろう。映画『ミッション・インポッシブル(1)』ではさっき引用したところの前で、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントはスキーマスクの目と口の部分を縫い閉じたものを被せられる。そして、
 
画像:スキーマスク
 
   *
 
ハント「いつマックスに会える」
作品名:端数報告3 作家名:島田信之