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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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184.夜明け



 明け方の空気が大好きだ。

 少しずつ空が東から白み始め、1日がゆっくりと動き出すあの瞬間。その瞬間を、電灯のついている部屋から少しカーテンをめくって、ながめるのがたまらなく大好きで仕方がない。
 俺があの時間を好きなのは、多分、一夜漬けをよくやるからなんだろうなと言う気がする。試験やレポート提出前日の夜。いくらかの焦燥と、厄介だなという思いで机に向かう。そして、ひたすら夜を徹してあがきまわった末に見られるのが、あの景色なのだ。その頃になるともうヘトヘトで、意識はもうろうとしている。そんな状態だということは、始めに思い描いていたはずの、
「一夜漬けなりに、ちゃんとしたレポートを書いたり、試験でいい点数を取ったりしよう」
という思いは、既にどこかへ消え去ってしまっている。そして、心に残っているのは、今回もよくやったな、という自分を褒める気持ちだけだ。そんな、ちょっとハイになった気持ちで早朝を迎える、これがたまらないのだ。この数時間後に、ほぼ白紙で試験を提出することになろうが、レポートの出来が悪いと教授に叱られようが、そんなことはどうでもよくなっているのだ。

 さて今、そんな悠長ことはもう言ってられない状況になっている。学生生活が終わってしまうのだ。学生が終わってしまうと、この夜明けをながめる楽しみも失われてしまう。社会人にも試験やレポートはあるかもしれないが、こういったものは仕事の合間を利用して進めるべきであって、多分一夜漬けでは通用しない。仕事自体が夜明けに差し掛かることもあるだろうが、恐らくそんなときは、今のような落ち着いた精神状況で、夜明けを見ることなどできないだろう。


 難しい問題だと思っていたが、しばらく考えていたらいい方法が浮かんだ。
 数年後、俺は公務員試験に受かり、外交官の職務についた。数多く飛行機に乗る仕事ならば、機上で頻繁に、夜明けを見ることができるはず。
 今回もうまく交渉がまとまった。帰りの飛行機の窓から見る夜明けの景色はさぞかし……。


 ……というところで、目が覚める。時刻を見ると朝6時。ぼんやりしながら思わずつぶやいてしまう。
「一夜漬けばっかしてたやつが、外交官になんか、なれるわきゃねえよなぁ」
布団からはい出てカーテンをめくる。あれほど好きだった夜明けの景色。だが、今はもう何の感興も催さない。
「会社、行くか」
俺は、心に引っかかった何かを振り払い、出勤の準備を始めた。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔