小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅱ

INDEX|119ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

122.忘れ物



 夏休み明け早々行われた席替えで、まさと君はじゅりちゃんの隣の席を引きました。
(やったぁ!)
恥ずかしいので声にこそ出しませんでしたが、大好きなじゅりちゃんの隣です。これから数カ月の間、幸せな気分でいられることはもう確実です。いつも授業中、遠目で見ているだけだったじゅりちゃん。彼女を、間近で見ることができるうえにお話しもできる、そう思うとまさと君の胸は高鳴りっぱなしです。

 早速、新しい席に座ると、じゅりちゃんがあいさつしてきます。
「よろしくね」
「あぁ、うん」
あまりのかわいさに、まさと君は素っ気ない返事しかできませんでした。

 それから数週間。時がたつと、いくらじゅりちゃんがかわいくても、隣で見ているだけでは飽きてしまいます。お話ししたくてもじゅりちゃんはちゃんと授業を聞いているので、取り合ってくれません。つまらないなと思いながら考えていると、まさと君の頭に一つの作戦が浮かびました。そうだ、教科書を忘れてくればいいんだ。そうすれば、同じ教科書で授業を受けることになるので、今まで以上にじゅりちゃんの近くに行けます。さらに、わからないことがあったら聞いたりもできるのです。そうすれば、もっと仲良くなれるかもしれません。いいことずくめです。

「でも……」
その日の夜、明日の用意をしながらまさと君は考えます。全科目忘れたりすると、さすがにわざとらしいかなあ。一日に一教科ぐらいにしておかないと。

 こうして、まさと君は作戦を開始しました。


 数日がたち、まさと君はニヤニヤしています。驚くべきことが起きたからです。

 まさと君が教科書を忘れてくる以上に、じゅりちゃんが忘れてくるようになったのです。いつも一日に二教科くらい、ひどいときには全科目忘れてきて、まさと君に教科書を借りるのです。まさと君は毎日のように、じゅりちゃんと教科書を見ているので、もうほおがゆるみっぱなしです。しかも、まさと君がうれしい理由はそれだけではないのです。
 じゅりちゃんが不自然に忘れ物をするようになった理由。それは、もしかしたら自分と同じで、隣の席の子と仲良くなりたいからかも。まさと君は、このように推測をしたのです。
「もしかしてじゅりちゃん、僕のこと……」
まさと君は、もう天にも昇る気持ちです。


 そのころじゅりちゃんは、隣のクラスのずぼらなイケメン、しょう君とお近づきになるために教科書を貸してあげていました。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔