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はなもあらしも ~真弓編~

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 医者からの帰り道、ともえは嬉しい反面、まだ思い切り足を動かせない事への不満で複雑な顔をしていた。

「ともえちゃん、さっきから難しい顔をして……すれ違う人たちが皆驚いてるわよ?」
「だって、もうほとんど痛くないのに、試合まで四日しかないのに、包帯取れないから焦るんだもん」
「無理しなければ練習も普通にしていいって先生おっしゃってたじゃない。気持ちは分かるけど、真弓さんもともえちゃんの足を治す事が先決だって言ってらしたんだし、焦っちゃ駄目よ」

 ふとともえは真弓の顔を思い浮かべる。
 優しい真弓。

「――うん、そうだね……」

 歯切れの悪いともえの言葉に、美琴は一瞬悲しそうな表情を作った。

「ともえちゃんも、真弓さんの事好きなのね」
「えっ!?」

 完全に言葉に詰まる。
 ともえも美琴も互いに足を止め、往来の真ん中で立ちすくんでいた。
 ともえの頭は混乱していて、何か言わなければと焦れば焦るほど何も良い言葉は思い浮かばず、落ち着き無く視線をあちらこちらへ動かすばかりだった。 
 しばらくして、美琴が自嘲気味に笑いながら歩き出した。
 ゆっくり、ゆっくりと――
 それに付いて、ともえもゆっくり歩き出す。

「私ね、もう随分幼い頃から真弓さんの事が好きなの……」

 好きという言葉に、ともえは全身が痺れるような感触がした。美琴は続ける。

「でもね、日輪家は従兄弟同士の結婚は認めていないの」
「どうして?」

 それだけ聞くのがやっとだった。振り絞ったともえの声は情けない程弱々しい。
 美琴はこちらへ顔を上げ、その可愛らしい瞳に薄らと浮かべる涙にともえは再び胸が痛む。

「武芸の道は師匠から弟子へと受け継がれて行くものでしょう? 才能のある幼い子どもを引き取って、自分の跡取りにする事だってあるわ。血ではなく、実力が一番の世界なの……ともえちゃんなら分かるでしょう?」

 静かに頷いた。
 そう、剣術にしろ弓術にしろ、こと武芸に関しては血族の繋がりよりもその流派をいかにしてさらに高みへあげるかが一門の課題である。我が子に才能がなければ、免許皆伝は血筋に関係無く渡される。
 ともえの父にしろ、幸之助や笠原限流にしろ、元々の流派は違っても、一時期同じ師範に師事したのだ。そこでさらに己の技術を磨くため、散り散りになってもただただ強くなるために鍛錬を積み重ねてきたのだ。