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チームメート

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 ここで相手5番打者が放ったのはこすったような当たりの浅いセンターフライ。
 センターの蘭は打球に対してやや後ろに構え、助走をつけてのバックホーム体勢を取る、三塁ランナーは駿足の2番打者、タッチアップの体勢を取ってホームを狙う構えだ。
(由紀さんとの差を見せつけてやるわ、レッドシューズのセンターはあたしよ)
 この試合、レッドシューズの2点は蘭のタイムリーツーベースによるもの、その上最後のアウトを自分のバックホームで取れば文句なしのヒロイン、シリーズのMVPすら見えて来る。
 だが、蘭はボールを弾いて後ろに逸らしてしまった、出来るだけ素早くバックホームしようと気が急いてボールから目を切ってしまったのだ。
(しまった!)
 転々と転がるボールを追う内に三塁ランナーは悠々ホームイン、蘭がボールに追いついた時には一塁走者も三塁を回り、バッターランナーも二塁に到達しようとしていた。
 鮮やかなバックホームでゲームセットどころかこの土壇場で同点にされ、更に逆転の走者まで許してしまったのだ。
 すくんだように立ち尽くす蘭を見てレッドシューズの監督は動いた。
「センター、坂口に代えて川中」
 
 呆然とベンチに戻って来た蘭に声をかける選手はいなかった、蘭もベンチに座り込むと頭を抱えた……が、乾いた金属音にハッとして顔を上げた。
 相手の6番が放った打球は左中間を襲うライナー、抜ければ逆転され、更にワンアウト二塁のピンチが続く。
(何てこと……あたしがしでかしたエラーって……)
 野球にミスはつきものではある、しかし自分がやってしまったのは功名心に駆られた末のエラーだ、三塁ランナーを返されてもまだ2-1、ツーアウト一塁なら逃げ切れる可能性は高かったはず……。
 だが、その時、蘭の目に赤いユニフォームが飛び込んで来た、普通なら間違いなく抜けて行く打球だが由紀が一直線に打球を追っているのだ、だが、由紀をもってしても捕れるか捕れないか微妙なタイミング。
(お願い! 捕って!)
 蘭は野球を始めて以来、初めてチームメートの活躍を祈った、自分以外の選手の活躍を。

 何とか追いついた由紀がジャンピングキャッチを試みる、ボールはグラブの中に吸い込まれて行った。
 そして、芝生の上に倒れ込んだ由紀は腹ばいのまま駆け寄って来たレフトにボールをトス、レフトはすかさず三塁へボールを全力送球。
 打球は左中間へ飛んだが、キャッチした由紀が倒れ込むのを見越して二塁ランナーがタッチアップから三塁を狙っていたのだ、レフトからサードへの送球はギリギリのタイミング……。
『アウト!』 
 サードのグラブにボールが収まっているのを確認した塁審の右手が上がった、連携プレーによる捕殺! レッドシューズは逆転のピンチを脱した。

「由紀さん!」
 仲間とタッチをかわしながらベンチに戻って来た由紀に蘭が声をかけるが、胸が一杯になり後の言葉が続かない、しかも7回の裏の先頭バッターは由紀、由紀は蘭に笑顔を見せるとネクストバッターサークルへ向かう。
「ありがとうございます」
 由紀の背中に蘭が帽子を取って深々と頭を下げた。
 その姿を見て、ベンチ内に笑みが広がって行った……。

 由紀が三遊間への内野安打で出塁するとすかさず盗塁、2番がバントで由紀を三塁へと送り、蘭と代わってセカンドに入ったベテランがそつなく外野フライ。
 由紀がホームを駆け抜けるのを見守った主審は両手を広げ、更に右の掌を高く掲げて宣言した。
「セーフ! ゲーム・セット!」

 由紀を中心に歓喜の輪が広がって行く中、蘭はベンチから出られないでいた。
 その背中をポンと叩いた者がいる。
 ヘッドコーチの浅野淑子だ、145センチの淑子は175センチの蘭を見上げるように言った。
「さあ、あたしたちも輪に加わりましょう、チームメートでしょ?」
 その暖かな微笑を見下ろして、蘭の顔にもようやく笑みが浮かんだ。
「はい!」
 背の高い背番号1と背の低い背番号10は笑顔を交わし合いながら、その中心で由紀が宙に舞っている輪に加わって行った……。
作品名:チームメート 作家名:ST