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狐鬼 第一章

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一軒、一軒
民家の瓦屋根に飛び乗っては、跳ねる

一軒、一軒
民家の瓦屋根の間隔が段段、開く

眼下に伸べる、夏緑樹林

遠く、高台に生い茂る森林が視界を過ぎる
以来、三眼の気配はない

無意識に切歯扼腕するも「焦るな」と、言い聞かせた

今、目指すは町外れにある、稲荷神社
軈て足を掛ける、朱い鳥居

止(とど)まる事なく前傾姿勢で飛び出す
白狐の、伸び切る身体が真下の参道を一気に越えていく

俺の為の「鳥居」だ
俺の為の「参道」だ

全ては俺の為に巫女が築いたモノだ

何者にも何物にも

汚させない
犯させない

其のつもりだったのに

そうして祭りの夜以降
信者達の喧騒を其のままに残す、境内へと降り立つ

緩りとした足取りで舞台に近付く

見遣る、舞台横の板塀に立て掛けた、旅行用鞄
当然、荒らされた様子もなく無事だ

手を伸ばし掛けるも
此処に置いて置けば、すずめも見付け易いだろう、と考え直す

軽い跳躍で舞台に飛び乗るが此方は荒れ放題だ

引き裂かれ垂れ下がる、天井付近の垂れ幕
舞台上には篝火台の破片が四方八方、散らばっている

肝心の舞台は彼方此方、舞台板が剥がれた状態だ

言葉を失う白狐が
大半は忿怒した結果の、自分の仕業だ
と、今更ながら反省する

剥き出しになった舞台裏の通路へと進めば一夜の惨劇が出迎える

屋敷の手前、同居する信者達の部屋は
後事も鬼共に荒らされ、どの部屋も廃墟の如く有様だった

気付けば庭園の鯉池も空、何処迄も貪欲な奴等だ

到底、巫女には見せられない
取り戻した暁、此処に連れてくる前に、と白狐は頭を抱える

其のまま憩いの場である、座敷に来れば

母親の朗らかな声に戯れ合う双子の声
信者達の慎ましく笑い返す声

其れ等の光景が現れては白狐の翡翠色の眼に映ずる

母親も双子も、信者達も幸せそうで
其れを眺める巫女は一層、幸せそうで白狐の口元が微かに歪む

屋敷の奥
双子の童子、母親、巫女の部屋へと続く

全ての遺体は荼毘に付したが母親の遺体だけは巫女の為、社に置いた

通り過ぎる際、双子の童子の部屋
開けっ放しの障子の引手に手を掛け、閉める

視界の片隅に赤黒い染みを捉えるも意識から弾き出す

巫女の部屋も、あの夜のままなのだろう

思いの外、荒らされていないが
何故か倒れ鏡が割れていた、一面鏡に白狐は眉根を寄せる

眼線を流す、奥の寝室
敷かれたままの敷布団の上、掛け布団が好い加減に捲れていた

今にも起き上がり、眠い瞼を擦る巫女の様子が浮かぶ

馬鹿馬鹿しい
そんな光景等、見た事もないのに

唯、毎朝、すずめがそうしている
だからきっと、巫女もそうしていたに違いない

万歳をするように身体を伸ばす、巫女の姿が
何時しか、すずめの姿と入れ替わる

ほらな

独り言つ白狐が敷布団に上がるや否や、伏せる
徐に前足を枕にして、翡翠色の眼を閉じた

巫女の匂いがする

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫