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狐鬼 第一章

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寝台机の上、朝の食膳を覗き込む
白狐が向かい合う自分の視線に気が付いたのか

「何だ?」

問われるも幾つも分かれ伸びる尻尾に顔を向ける
勝手に察する限り機嫌は良さそうだ

程程、病院の食事が気に入った白狐は
彼女がパンにジャムを塗り終えるのを大人しく待っていた

「昨夜は何処に行って、たんですか?」

機嫌を伺いながら訊ねるも語尾は小声になる

「関係ない」と、言われれば其れ迄だし
抑、此の病棟内を「ぶらつく」以外、行ける場所等ないのだが

案の定、翡翠色の眼を半目にする白狐に彼女は慌てて付け足す

「夜中に目が覚めたら姿が見えなかったから」

無意識に寝返りを打ち掛け痛みで飛び起きた

文字通り「飛び起きた」結果
悶絶寸前で呻きながらも見遣る足元に
就寝前迄、陣取っていた其の姿がない事に気が付いた

「野暮用だ」

無言よりはマシだが
此れは此れで「お前には関係ない」と、言われたようなものだ

意味もなく、パンの上をジャムバターヘラが何往復もする
そんな彼女を白狐が呼ぶ

「此れ、何だ?」

彼女の寂寥を余所に
首を傾げ指指す白狐に紙容器の「其れ」が何かを教える

「ヨーグルト、ですよ」
「美味しいので良かったら、どうぞ」

本音は苦手だ
此処ぞとばかりに白狐に押し付けてやる、と彼女は北叟笑む

「有難く頂く」

言う也、紙容器事
大口に放り投げる白狐に彼女は素っ頓狂な声を上げた

午後一で面会に来た母親は
寝台机の、昼の食膳をちら見して「美味しそうね」と、建前を述べる

すっかり定着した向かい側に陣取る
白狐が母親の手前、手も出せず顔面の髭をびんびん!弾く

「明日、退院だって」

如何やら病室に来る前に偶然、看護師詰め所にいた
主治医から挨拶がてら説明されたらしい

自分同様、白狐も母親の顔を見詰めている

元元、二、三日の入院だ
自分は勿論、異存はないが白狐は如何なんだろう

「野暮用」とやらは済んでいるのだろうか

其の翡翠色の眼を真ん丸くする
横顔から察するに其れはなさそうな気がした

早速、母親は退院手続きの為か病室を後にする

向かう合う彼女は何て声を掛けたものか
と、悩むも聞き難い事はさり気無く聞くのが得策だ

「あの、」

だが、肝心の白狐は答える気がないのか
昼の食膳を指指し促す

「此れ」

はいはい、フルーツゼリーですね

彼女は頷くと慎重に容器の蓋を剥がす
縁一杯に盛られた中身に添えられた匙を刺そうとするも、止める

そうして大口を開けて待っている
白狐の口内目掛け容器の中身を押し出した

「帰り支度、お願いね」

と、言い残し慌ただしく帰宅する母親を見送り部屋を見回すが
殆ど、母親自身の手で片付けられている

明日、退院時に着る衣服も寝台横の小棚に用意してあった

白狐は白狐で日中、寝台の足元で寝入っていたが
しっかりと夜の食膳を平らげてから「野暮用」と、呟き病室を出て行く

因みに果物はキウイフルーツだった

真逆の皮事、食そうとするので慌てて止めれば
「林檎は食えるのに此奴は食えないのか?」と、不満げに訊くので答える

「食べても良いですけど「ゔぇ!」てなりますよ、きっと」

何故なら表面には柔毛があるので
唯、皮事なら食物繊維やらビタミンE、葉酸を多く摂取出来ますけど

彼女の提案?通り皮事、大口に放り込むも
彼女の期待?通り白狐は「ゔぇ!」とはならなかった

当然の丸呑み

舌舐めずりする其の大口を眺めて彼女は納得する

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫