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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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sakura

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レモンとの出会い


 15年前のホンダのステップワゴン、その隣に車を止めると、女性が明に言葉をかけた。明はさくらへのプレゼントを観に来たのだった。
「すみません。エンジンがかからないのですが、ブースターケーブルをお持ちでしょうか?」
明は専門的な言葉に驚いた。30になるかまだ20歳代なのかと思える女性だ。
「有りますが、良ければ、僕がエンジンかけてもよろしいですか?」
「お忙しいのにお手間をおかけします」
 明は彼女の車に乗って、キーを回したが、セルが回らない。バッテリーとも考えられたから、ライトを点け、ラジオのスイッチを入れた。ライトはつき、ラジオも音が出る。考えられるのは、セルモーターかイグ二ッションスイッチだ。
「これは、ケーブルを繋いでもエンジンはかからないと思いますよ」
「前にもこんなことがあったんですよ。それで、バッテリーから電気をもらったら、エンジンがかかったんですよね」
 彼女は、明を信用していない。
「多分駄目だとは思いますが、繋ぎましょう」
 明がそう言うと、暗い表情だった、彼女の顔が笑顔のように、明るさを感じた。
 明はバックで止めたので、車の向きを変えた。
 ケーブルを繋ぎ、彼女にエンジンをかける合図をした。明は同時に自分の車のアクセルをふかした。1分ほど続けたが、彼女からエンジンのかかった合図はなかった。
 明は車から降りた。
「僕は車屋です。良ければ家で直しましょうか?」
「すみません。助かります」
「足利ですから、少し時間はかかります」
「代わりの車があれば、大丈夫です。私は宇都宮です」
 明は店に電話を入れた。
 30分ほどでレッカー車が到着した。彼女の車には小さな男の子と女の子が乗っていた。明は自分の車を彼女に貸すことにした。
 スバルのレボーグであった。モデルチェンジしたばかりの新車である。もちろん、貸すつもりはなかったが
「乗ってみたいな。ピカピカの車」
 子供の言葉に、幼い時の自分を感じたのだった。車両保険もかけてあり、何かあっても安心して居られることもあった。
「結構です。この車新車でしょう」
「これも縁ですから、傷をつけたとしても、弁償してとは言いませんから、自分の車のつもりで乗ってくださいね」
「すみません。ありがとうございます」
彼女の車をけん引しながら、店に戻る途中で、修理工の田中が笑いながら、小指を立てて
「美人さんですね」
 と言った。
「何を勘違いしてんだよ」
 明は田中の頭を小突いた。
 足利の上空では先日来、山火事の消火でヘリコプターが3機ほど飛んでいる。ほとんど、飛行機なども通過しない地域なだけに、その騒音は異常な雰囲気を感じさせるものであった。
「今日で3日目だよな。早く消えないと、今日あたりは風が出そうだな」
 明の自宅も店も山からは5キロほど離れているが、山の近くにはお客の家が2軒ある。電話を入れた時は、人家のほうに火は燃え広がっていないようであった。
 災難はコロナと同じで、いつ我が身に降りかかるかも分からない。明はそんなことを痛感した。
 翌日、レモンの車の様子を工員に訊くと
「エンジンがかかればいいのですかね。オイルも汚れているし,フイルターも交換したほうが、プラグも駄目ですよ」
「電話で確認するから、交換部品をメモしておいてな」
 明はレモンに電話を入れた。留守電になった。メッセージを伝えた。【修理のほうはこちらにお任せいただけますか、それともエンジンがかかればよいですか、古いお車ですから、修理はかなりあるようで、部品交換もあります。お返事ください】
 彼女から電話があったのは、その日の6時を過ぎていた。
「すみません、お金がありませんから、最低でお願いします」
「了解しました。明日には修理完了します」
「閉店は何時になりますか?仕事が終わるのが5時ですから、ちょうど道も混んでいますから、1時間半はかかります」
「お着きになるまでお待ちしていますから安全運転でお越しください」
「ありがとうございます。請求額はいかほどになりますか」
「6万円弱です」
「えぇ」
 明は彼女の驚きの言葉を敏感に感じた。
「分割で結構ですから、明日はお金は結構ですよ」
「ごめんなさい。嬉しいです。ありがとうございます」
 
作品名:sakura 作家名:吉葉ひろし