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ウチのコ、誘拐されました。

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第九章:俺とお前と事件と猫と、


「お疲れ。」
「……ッス。」
祝を連れて戻った武東を、渡良部が険しい表情で迎えた。
武東の表情も、渡良部に負けず厳しいものになっているだろう。
「……祝。」
渡良部の低い声に呼ばれて、ずっと俯いていた祝がぴくりと反応した。僅かに首を持ち上げる。
「テメエ、馬鹿なことしたな。よりによってカスカベの家に手を出すなんてなあ。」
怒りと侮蔑の交じり合った言葉に、祝が再び大きく項垂れた。
祝が落ち込んでいるのはそれで良いが、それでは武東の怒りは収まらない。
当然だろう。
みすみす猫を殺されて。
みすみす京花を悲しませた。
武東がもっと早く助けに行っていれば。悔やんでも悔やみきれるものではない。
「猫は…法律じゃただの“モノ”です。誘拐しようと殺そうと、ぐんと罪の重さは減る。なんたって“モノ”ですから。」
動物愛護法違反?窃盗罪?器物損壊罪?銃刀法違反?
どれだけ罪を重ねても、殺し。誘拐。その本来の罪の重さには到底届かない。
「だから!お前のやった事は、これからお前が与えられる罰よりもずっと重い。一生それを忘れるな。」
「忘れたくても、忘れさせねえぞ。」
武東の言葉に、渡良部も続いた。
「お前が今回やった事は、完全にカスカベを敵に回した。最高に思い切ったことをしたよ、お前は。お前がやったのは法律としては窃盗と器物損壊ってとこだが、カスカベにとっては誘拐と、殺人だ。」
「は!?」
初めて、祝が弾かれたように顔を上げた。何か言いかけるのを、だが渡良部は「黙れ」の一言で封じた。
「何が違う?」
「お……」
再び口を開いた祝を封じたのは、今度は電話だった。
無機質な電子音が、部屋に響く。
「……ち。オイ武東。こいつ見張っとけ。」
苛立たしげに舌打ちを一つして、渡良部が派出所の方へ出て行った。武東は、祝を睨みつけながら、じっと電話の方へ耳を傾けた。
『ああ……カスカベさんか』
渡良部の声が聞こえて、武東はビシ、と背中を伸ばした。集中力を全開にする。
『もうそろそろ、連絡しなきゃとは思ってたんだがな…』
『……あ、いや、そうじゃなくて……。そう。犯人は武東がとっ捕まえたんだ。……あ、いや、ちょっと待ってくれ。そんなに喜ぶな、あ、いや、あのだな。』
渡良部の声がごにゃごにゃと濁る。武東はギロリと祝を睨みつけた。そりゃ言いにくいだろう。殺されたなんて。
『実は、言いにくいことなんだが、言わなきゃいけない、こと、が……え?は?ちょ、ちょっと待て、ちょ、』
ふつりと渡良部の声が止んだ。何の話をしているのかは聞こえないから分からない。
しばらくの間、じっと沈黙が続いた。
『……わかった。ああ、分かった。分かったから、ちょっと待ってくれ。』
再び声がして、足音がした。と思ったら扉が開いて、渡良部が現れた。
「先輩、相手、」
「ああ、カスカベだ。武東、代われ。」
「え、そんな重い役、僕、」
「良いから行け。」
半ば追い出されるようにして役割を交代させられる。武東は恐る恐る受話器を手にした。
「も、もし、もし……」
「あ、武東さん。」
春風のような、京花の声が聞こえた。犯人が捕まったと聞いて、無邪気に喜んでいるのだろうか。武東はますますやるせなくなる。
「あ、あのですね、」
とても言いにくい。それに何だか、電話の向こうが騒がしい。
「春日部さんには、その、言わなくてはならないことが、ええと、」
雑音か騒音か、声が通りにくい。何だか、ギャーギャー言う声。
「実は黒丸君のことで、その、」
「ええ、お陰様で。本当に武東さんや渡良部さんには大変お世話になりましたわ。」
「お陰……いえ、面目ないことに、」
声はますます大きくなる。京花の声すら聴きにくい。人というより、何だか動物のような。
動物、というか、熊のようなライオンのような。
「あれ?」
「?どうしました、武東さん。」
「あの、ひょっとして、」
熊っていうか、ライオンっていうか、もしかしてこの声、ネコ?しかも、これ、
「ええ、お陰様で、黒丸も先ほどとても元気なままで戻ってきてくれて。本当に感謝の言葉が見つかりませんわ。」
死んだんじゃ、なかったの?黒丸。
「元気、ですか?」
怪我とか。
「まるで、傷一つなく。まるで誘拐なんて、なかったみたいに。」
「あー……あ、それは、本当に良かったですね。本当に、ハイ。」
「また後日、挨拶に向かいます。本当にお世話になりました。それでは、今日は失礼致します。」
「あ、いえ、無事で何よりです、では、はいまた。」
あっれ?????????????????
頭の中一杯に「?」を浮かべたまま受話器を置き、祝と渡良部の待つ部屋に戻る。
「先輩。」
「おう、武東。」
微妙な表情で戻った武東を、似たような表情の渡良部が迎えた。その隣で項垂れる祝の図は変わらない。
「あの、ネコ、無事、みたいですね。」
「な。」
「でも、あの部屋、血とか、あれは?」
部屋の中を、微妙な空気が流れた。
渡良部が、祝の左手を持ち上げた。祝を捕まえる時、武東が掴んだ方の腕だ。その袖を、捲る。
袖の下から、白い包帯が現れた。包帯の表面には、血が滲んでいる。
「……あれ?」
ますます微妙になった空気の中、渡良部が大きなため息を吐いた。
「祝……」
祝がますます頭を落とした。さっきまでは不貞腐れているように見えていたのだが、今ではその背中にとてつもない疲れが乗っているのだと分かった。
「祝、何があったのか、話してくれるか。」
「……俺は」

ようやく、祝が口を開いた。