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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.4 異空間








僕が目を覚ましたのは翌朝だった。僕の瞼を通して強い朝の日光がちかちかとして、鳥の鳴き声で目が覚めた。コンクリートの上で気絶していたからか、体を起こした時、背中など、あちこちが痛んでしようがなかった。



飼い犬だったタカシが、春喜の声で喋った。僕はあまりのことに混乱して、タカシが急に目の前から消えたことで一気に気が緩んで、それで倒れてしまったんだろう。



僕はその事実を消化するためにどうしたらいいのか分からず、「もしかしたら、疲れて見た夢みたいなものだったかもしれない」とまで思いかけた。でも、昨日目の前に現れたタカシの眼差しはまるで人間のような、複雑な悲しみと苦悩を宿しているように見えたし、そのあとすぐに元に戻ったように見えたタカシは、結局消えてしまった。それは確かだった。僕はそこに疑いや目の迷いを差し挟む余地が見つからず、誰も居ない道をまた自転車でのろのろと進んで、新宿にある僕のねぐら、「小早川会計事務所」に戻った。



その日から僕は、春喜を一層真剣に探すようになった。とは言っても、春喜とタカシは人々を攫う時にだけ現れるのだから、人が居なければ姿を見ることは出来ないだろうと思い、まずは人が集まるスーパーに行ってみたり、中高生のたまり場になっている古いボウリング場や、空いている店の近くを見回り、あてどもなく春喜の姿を追い求めた。



一カ月ほどもそんなことをしてみて、結局何も成果は出なかった。そして、その間にも人類は一人、また一人と消えていった。そして、いつしか僕は、人間を目にする日がなくなった。



「小早川会計事務所」の近くにあった商店街のうちの二軒の店は、店主が消えてしまったので残った人がシャッターだけ閉め、そのシャッターはすぐさま、暇を持て余した子供などによって、落書きで埋め尽くされていった。でもその子供たちももう居ない。


大人も子供も老人も、僕はもう会うことがなかった。






僕はそれから、このあたりにある家に一軒一軒こっそり忍び込んで回って、「あるもの」を探していた。遠くに居る誰かとも交信が出来て、言葉を交わせる道具。そう、無線機だ。しかし無線機を趣味で持っている人は、とても少ない。そうそう簡単に愛好家の家に辿り着くことは出来なかった。でも僕は、ある時一つの思いつきを得た。



その日僕は、いつもの通り革張りの豪華なソファの上で目覚め、「また今日も無線機探しか…いつ見つかるかな…」と、行き詰って上手く働かない頭を持ち上げ、部屋の中を見渡した。そして、「ここにあれば一番良かったのに。まあ、会計事務所では無線機なんか必要ないもんな…」と思い、ため息を吐いた。でもその時、ふとひらめいたのだ。


「そうだ。…そうだ!」


僕は思わず、そう叫んでしまった。


趣味で持っている人を探すことが効率が悪いなら、職業上の手段で使っているところから分けてもらえばいいじゃないか!僕は、近所にある交番まで自転車を漕いだ。

その交番には、もうずっと前から人がいなかった。なぜなら、この辺りには僕以外の人がもうほとんど居ないからだ。というか、おそらく誰も居ない。僕は躊躇せず交番の扉を開けて中に入り、誰も居ないのに、「すみません」とちょっと心の中で唱えてから、そこらに放り投げてあった無線機を念のため二つ掴み取って、そこでそのまま起ち上げようと電源ボタンを押してみた。すると“…ガガッ…ズズズ…”という音がすぐに聴こえた。やった!これで誰かと話せるかもしれない!僕はそう思って、いろいろな周波数にダイアルを合わせようとして気づいた。

「あれ…?」

警察無線機には、ダイアルらしいものは無いし、それに、周波数を変える機構らしきものは何も無かった。そういえば、どこかで聞いた事がある。「警察無線は傍受されるのを防ぐために、独立した周波数を使っている」と…。僕はそこで失望しかけたけど、すぐに気を取り直した。


だったら、どこかに居る警察官の人に届けばいい!そう思って無線の音にノイズが混じったまま、無線の向こうに呼び掛けた。


「えーっと、もしもし!誰か居ませんか!答えてください!」


答えは無い。でも僕はもう一度、もう一度と思って、何回か電源を入れ直してみたりして、何度も無線の向こうに呼び掛けたけど、何も聴こえてこなかった。