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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.2 青い男の子








僕は廃ビルから二軒隣にある駐輪場に行き、ほったらかしてあった自転車を引っ掴んでそれを葛飾へ向け走らせた。ガソリンスタンドに貯蔵してあったガソリンはすべて供給が停止して一年になるし、バイクや車は使えなかった。そうして自転車で一時間ほど走った。


葛飾区に入る頃には、もう夜は少しずつ深くなって、大きい国道でも街頭の限られて寂しい中、僕は葛飾区警察署に辿り着く。そして玄関を開けた。建物の一階は暗く、誰も人が居なかった。


二階へ上がって灯りの見えた「刑事課」の扉をノックすると、しばらくして誰かが怪訝そうな顔で少しだけ扉を開け、「なんですか」と僕に聞いた。それはもう六十にはなろうという感じの男性で、肩から胸のあたりだけが見えているスーツをすっかり気崩し、ぼさぼさの髪を長く伸ばして、髭も剃らずに皺の寄った顔で眠そうな目をした人だった。

「あの…今日行方不明になった二十五歳の男性のことについて、少々お話が…」

するとその人は何も言わずに扉を開けて、僕を中に招き入れてくれたが、明らかに意欲を失くしていて、ただ誰かが来たら扉を開けるように言いつけられている番人のようだった。

その人は僕を、その部屋の隅にあった衝立の中ではなく、なんと部屋の中央にあった事務机の中の、一つの回転椅子に僕を座らせた。そうしてその人も、隣にあった椅子に腰掛けた。僕は部屋の中を見渡していたけど、中央に寄せられている事務机には誰も座っておらず、「部長」と書かれたプレートの置いてある席も、空席だった。奥の方にあるソファで、恰幅の良いスーツ姿の男性がスーツをしわくちゃにして眠っているほかは、その人と僕意外、誰も居なかった。

「それで?何かご存じなんですか?」

そう言いながら、警察の人はポケットから何かを取り出そうと中を探る。出てきたのは、煙草とライターだった。僕は驚いた。そんなもの、ついぞ目にすることもないほど出回らなくなっていたからだ。僕がそう思っているのがわかったのか、警察の人はハハハと笑った。

「近所にある煙草屋の爺さんがね、熱心にいろんなとこからかっぱらってきちゃあ、食べ物と交換してるんですよ。今日は柿をあげたから、一箱余計にありつけたわけです」

「そ、そうだったんですか…」

「それで?ああ、そういえば行方不明になった二十五歳の男性は三人いますが。ニュースになった方の情報ですか?」

「はい。「子供が」というメモ書きに、ちょっと気になったことがありまして…」

僕たちは当然のようにそんな話をしていた。しかし、一つの区から、一日に三人も同じ性別と年齢の人が行方不明になるなんてことが、もう当たり前となっていることに、自分が麻痺してしまい、通り過ぎていることは感じていた。

「ほう。その子供にお心当たりが?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど…とにかく、その方のご家族に会って、お話をさせて頂けませんか」

僕がそう言うと、警察の人はちょっと渋い顔をして、持っていた煙草の箱から一本引き出してライターで火を点け、そっぽを向いて煙を吐いた。そうして気乗りしないような顔でちょっと黙っていた。

「…それはやめておいてあげてください。なんの確証もないなら、私はその方の家には案内しませんよ。これでも警察ですからね」

僕はそこで言葉に詰まってしまった。確かに今現在、混乱どころか滅亡に向かっていようが、警察は警察だ。何も情報を持っていない人間に、その家族のところへ案内してもらえるはずがない。僕は必死に頭をひねって、やっと一つ、見つけ出した言葉をつぶやく。

「青いランドセル…」

そう僕が口走って顔を上げると、警察の人は皺の寄った顔を恐怖で引きつらせ、不気味そうに身を引いていた。



…当たった。



「あなた、なぜそれを…」

「とにかく、その家に案内してください」