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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.12 招かれざる客








僕は「ギフト」を春喜から、いや、神から授けられた。それから僕たちは宮殿を離れ、僕はオズワルドさんの家に案内された。

オズワルドさんの家はあまり豪勢な造りではなく、質素な漆喰のような壁で出来ていた。僕が真っすぐ案内された居間には大きめの暖炉があって、居間の椅子は、ふかふかした布張りの一人掛けのソファが二つだった。それから、途中通り過ぎた廊下には客間らしい大きなホールの扉があり、居間の向こう側には、寝室と手洗いがあるらしかった。

僕たちは暖炉に暖かく炎が燃え立っているのを感じて、僕は炎を見つめていた。炎が生きているようにゆらめくのを見ていると、さっきまでの異様な興奮は少しずつ治まっていく気がした。


弟は、人ではなくなっていた。いいや、僕の弟は人間だ。でも、弟の中には「神」が居た。そしてその神はなにごとかを喋り、僕に力を与えた。


「神の仰せられたことは、おそらくこんなような意味合いだとわたくしは思います」

オズワルドさんがそう言ったので、僕は暖炉からオズワルドさんの顔に目を向けた。その顔はとても神妙に、前に居る僕を見つめていた。

「あなたが授かったギフトは、“右手をかざしたものを自在に異次元へと送る能力”だ、ということでしょう…」

僕も、「やっぱりそうか」と思って、慎重に頷く。そうするとオズワルドさんも頷いて、少し考え込むように目を閉じた。ややあって目を開け、彼はこう言った。

「あなたはこれから軍へと赴き、おそらくヴィヴィアンたちの隊に入ることになると思います。あなたにあるギフトが、現在の最強の力と言えるでしょう」




僕は住む家も無かったので、そのまますぐに軍の兵舎へとオズワルドさんと一緒に歩いて行った。オズワルドさんは、門番らしき人に、「兵長は居ますか」と声を掛けていた。

僕とオズワルドさんが門番さんに案内されたのは「兵長室」と書かれた簡素な札のついた扉の前で、ノックをするとすぐに「入れ」という声が聴こえてきた。それは、思っていたより手厳しそうな、冷たい声だった。

扉を開けると、事務机の前に背の高い男の人が座っていた。彼は蛇のように釣り合がった目元と、薄い唇、それから尖った鼻をしていて、細長い顔の上で髪を左右に分けて、ぴっちりと撫でつけていた。

彼は用心深そうな目で僕たちを見つめて、黙って事務机の前にあるソファに手のひらを向けた。僕たちはローテーブルを囲うように置かれたソファのうち、兵長に向き合える手前のソファに腰掛けた。

「君が…“お兄様”か。私は兵長の、ミハイル・イワーヌイチだ」

そう言った兵長は、それまでの人と違い、冷たい侮蔑を向けるような目で僕を見つめた。

「この方は早々に、もうギフトを授かりました」

オズワルドさんはなるべく好意的な微笑みを作ろうとしていたようだけど、どこか緊張しているようにも見えた。僕は兵長に向かって頭を下げたけど、なんだか怖くて、目を逸らすことが出来なかった。

兵長は椅子の上で足を組み換え、テーブルに預けていた腕も同じようにして僕を見つめていたけど、「ふむ」と、納得したような声を出した。そしてずるそうな笑みを浮かべて、「どんなものだ」と僕たちに聞いた。オズワルドさんは僕を見て、頷く。

僕は「自分が言うのか、この人と話すのか」と思ってちょっと怖がっていたけど、「神と話すよりもよっぽど怖くない」とも思えた。僕は少しうつむけていた顔を上げて、明らかに僕を初めから疎ましそうに見ている兵長を見つめる。

「異次元へ、対象を消し去る能力です」

そう言うと兵長は少しだけ驚きに目を見開いたけど、すぐにそばにあったインク瓶を持って立ち上がり、それを僕たちの前にあるローテーブルに置いた。

「…やってみろ」

するとオズワルドさんは、「平常時はギフトは作動しませんし…」と慌てて言い添えた。でも兵長は首を振る。

「“神の意志”なのだろう?それなら、今がその必要な時だと分かってくれるはずだ。さあ。やれ」

そう言って腕を組み、兵長は僕を見下すように見下ろしてその場に立っていた。僕はなぜここまで自分がこの人に嫌われているのか分からなかったけど、とにかくやらなくちゃ、どうやらここには居られないらしいし、仕方なく右手をかざした。

右手をかざす。本当にそれだけでいいのだろうかと僕は思っていた。でも、それだけでよかった。

目の前に今まであったインク瓶はぽかっと居なくなって、瓶の底に付いていた僅かなインクの痕だけがテーブルの上に残った。僕はもう一度びっくりして、自分でも息を呑んだ。本当に、こんなことがあるんだ。そう思うと、なおのことあの「神」を信じないわけにはいかなかった。

兵長も少し驚いたけど、僕の力など意に介していなかったように踵を返して事務机の椅子へと戻ると、思い切り目を細めて僕をしばらくじっと見つめた。

「…よろしい。では、君は今日から第一班の任に就いてもらう。訓練はあるが、実戦での危険を訓練で拭い去れるわけではない。くれぐれも、死ぬな」

そう言った後、兵長は、すうう…、と大きく息を吸う。

「それから、私の命令は絶対だ!わかったな!起立!気をつけ!敬礼!」

「は、はい!」

僕は容赦のない兵長の叫び声に慌てて立ち上がり、上を向いて右手をこめかみに当てた。それを見て、兵長はまたあの冷たい目をしていた。