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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.11 僕へのギフト








宮殿へ向かいながら僕は、「これからどうするんだろう」とだけ心で繰り返していた。あまりに大きな出来事が起き過ぎたのだ。

父の死、母の死、弟が遠い遠い存在になってしまったこと。そして僕には、帰る家すら無くなってしまった。これからどうするんだろう。何を支えに、僕は生きるんだ…。

僕のそばをついて歩いているタカシは何も知らない顔で僕を見上げては微笑んでいるように見えた。


今朝目覚めた時には気持ちよく深呼吸をしていた花畑が、疎ましかった。身近に感じていたはずの花の美しさが、もはや僕の目には「美」としては映らなかった。何もかもが無意味に見えた。そして、その虚無感が僕の背中を這いまわって、今にも僕の命にまで干渉しようとしているのがわかった。その時、宮殿の扉の前に来た。


僕はもう、その白く輝く扉の中身を知っている。弟がここに居る。だからまだ歩いていたんだ。春喜は「神」と言われたって、やっぱり僕の弟だ。僕は弟に会いに行くんだ。そう自分に言い聞かせた。


扉は今朝のように勝手に開き、その先を見るのに重い頭を上げた時、僕は驚いた。


「おお…!ハルキ様…!」

オズワルドさんは歓喜のあまり、声を上げた。春喜は真っ白なローブ姿でベッドの上に起き直って、こちらを見て微笑んでいたのだ。タカシは春喜のそばまで駆けてゆき、ベッドの足元で絨毯に体を伏せ、遊び疲れたように目を閉じた。

「…春喜…」

僕は光に誘われる虫のように、よろよろと弟に近寄ろうとした。懐かしい弟が、今目の前に居る。でもなぜか怖くて、ベッドにろくろく近づけずに扉を少し過ぎただけで、僕の足は止まった。

春喜は凪いだ海のように、穏やかで深い黒目を細めて、少しだけ小首を傾げた。僕には、その首を傾ける動作の方が、まるで人間だった頃の名残のように、少しぎこちなく見えた。

「久しぶり、お兄ちゃん」

春喜だ。春喜の声だ。

「久しぶり、春喜…」

僕は嬉しくて、でもどこかよそよそしく見える弟の前では兄らしく振舞うことが出来ないのが、もどかしかった。春喜はベッドに手をついて体を預け、ちょっと下を見ていた。

「僕、ずっとさみしかったけど、お兄ちゃんがいるから、もうさみしくないよ」

そう言っている春喜の顔は、言葉に反してさみしそうだった。

僕は次の言葉を言おうとして、すごく緊張した。でも、僕は兄弟として、春喜の兄として、当たり前の望みを弟と分け合いたかった。お前は神なんかじゃないから。

「僕は…元の世界に、お前と居たかったよ」

僕がそう言っても春喜は顔を上げてくれず、少し痛みを堪えるように眉を寄せ、伏せていた瞼を閉じてしまった。

「みんなと一緒に帰ることは出来ないのか?父さんと母さんは…」

僕がそう言った時、宮殿の中に急にゴオッと一陣の風が吹き、その音で何も聴こえなくなった。僕たちは咄嗟に目を閉じて両手で顔をかばう。

「なんだ!?春喜!」

でも大きなつむじ風は一瞬で止み、また静寂が訪れる。僕は顔を上げるとすぐにベッドの上を見た。でも、ベッドの上には春喜は居なかった。

「春喜!?どこに…」

辺りを見渡そうと右を見ようとした時、僕の右腕が何者かにぎゅっと掴まれ、驚いて腕に目を落とすと、春喜は僕の隣に居て、腕を掴んだのは春喜だった。僕はまるで幽霊のように一瞬にして隣に現れた春喜にぞっとして、「違う、春喜じゃない」と、確かに感じた。