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八九三の女

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[番外編 少年の主張]



「興味がない」と、言ったが最後
休み時間の度に「1on1」を強制される羽目になった少女は
今日も校庭の隅にある、バスケットコートに引っ張られる

当然、初心者の少女には
運動音痴の小鳥遊君が助っ人なのか足手纏いなのか、付く

「余裕余裕ー」

憎たらしい程、爽快に言うだけあって
ドリブルしながら少女と小鳥遊君の間をすり抜ける
月見里君の動きは素早く、ブロックしようと伸ばす腕が身体が
ぶつかる度、二人はお互いに謝る

少女を意識すればする程、ちらつく「あの人」の影

日に日に成長する自分の身体同様
長身だが華奢な身体付きの少女の印象も変わってくる

小鳥遊君は全然、プレイに集中出来なかった

少女は始め、バスケットボールを追い掛ける自分に
意味が分からなかったが途中から駆け抜ける月見里君の背中を
追い掛ける事が何故か面白くなった
そして今日も、なんとか彼の足を止める事を目標に追う

無情にも最終の休み時間が終わる
放課後は色色、忙しい少女は対戦出来ない
目標達成は明日のお楽しみだ

「部田、ありがとー」

バスケットコートに隣接する体育倉庫に
バスケットボールを片付ける月見里君が唐突に話し出す

「お陰で御守り貰えたー」

「御守り」という言葉に敏感に反応する小鳥遊君を余所に
少女には思い当たる節がある

「御守りにしたいんだー」
「自撮り写真、お願いしてくれるー?」
と、夜な夜な月見里君から相談を受けていたからだ

少女は叔母自身が嫌じゃなければ、と叔母にメッセージしたが
ヤル気?満満で倶楽部仕様のバニーガール姿を提案してきたので
それは流石に止めた

「今、どんな格好?」

「パジャマだよ~」
「きょうはもう寝るの、もちろんテディちゃんも一緒~」

「いいかも」

「え?」

「パジャマ姿がいいかも」

他の服装を提案したとしても
叔母の思考回路によっては湾曲されそうで、怖い

パジャマ姿なら案外、真面だろう

「おっけ~!」
と、返信が来た切り、就寝時間になり後の事は知らないが
念願の写メを貰った割には静かに話す月見里君に少女が聞く

「嬉しく、ない?」

「嬉しいよー」

なんとも素気ない、普段の月見里君ならば
間違いなく大騒ぎで喜ぶと思っていた少女は首を傾げる

体育倉庫の扉を閉めながら、月見里君が言う

「御守り所か、バイブルだよー」

そうして携帯電話の画面を差し出す
イヤホンジャックピアスに刺さった、叔母とペアのキャラクターが揺れる
少女はそれに気を取られ出遅れた

横で、覗き込んだ小鳥遊君が口元を押さえて後退る

「すまん、小鳥遊」

いやに芝居がかった口調で謝罪する月見里君に
少女は怪訝な顔をするも差し出されたままの携帯画面を見遣る

矢張り、叔母は斜め上を行く

テディベアにバックハグされた叔母は目元ピースで片目を閉じ
胸元がやや開いたナイトウェア姿でポーズを決めている

白磁色の滑らかな生地の質感のせいか
叔母の華奢な身体の線を惜しみなく強調していて
生足の柔らかさまで伝わってくるようだった

ナイトウェア姿なら姉で見慣れているが、姉とは違う趣がある
流石、叔母さんだ!と、月見里君は思う

小鳥遊君に至っては
雑誌等で見慣れていても「知り合い」という優位性は凄まじい
思春期真っ只中じゃなくても震える

若干、前屈みになる月見里君は
体育倉庫前で座り込んでいる小鳥遊君を遠目に眺めて、呟く

「俺も我慢出来なかった」

月見里君の言葉に身を屈めたまま
携帯画面を覗き込んでいた少女が身体を起こす

「我慢出来ない?」

「そー」

脳味噌を通さず脊髄反射の手本のように
返答する月見里君に小鳥遊君は嫌な予感がしてならない

「我慢出来ないと、どうなるの?」

そう聞く、少女は社長との一夜を思い出す
我慢出来た結果、どうなるのか
我慢出来ない結果、どうなるのか

此処にきて月見里君も躊躇う
「えーと、ね」と、満面の笑みを少女に向けるも目を遣る
小鳥遊君は強張った顔で自分の足元の地面を凝視している

流石に小鳥遊君の前では言い難い
だが、面と向かって真面目に聞く少女に月見里君は考え直す

心做しかむずむずする唇の端を親指で引っ掻く
金縛りのように身体が動かない小鳥遊君は嫌な予感しかしない

「抜くかなー」

瞬間、小鳥遊君は声にもならない叫び声を上げるが当然
少女にも月見里君にも聞こえない

「抜く?」

月見里君の言葉に疑問符で聞き返す少女に
携帯画面の叔母の写メを指差しながら、月見里君が頷く

叔母で抜く?
少女は意味が分からず彼是、考えるも知識がない井戸に
湧き上がる水源はなく結局、分からず仕舞いだ

考え込む少女の姿を興味深い眼差しで見ていたが
軈て、今度は自分の番とばかりに月見里君が少女に聞く

「部田はやってるのー?」

体育倉庫前の小鳥遊君が弾かれたように立ち上がる

自分はこいつを侮っていた
腐れ縁の幼馴染として今、確信した
こいつは生粋の、変態だ!

始末してやる!

月見里君目掛け飛び掛かるや否や
運動音痴とは思えない程、華麗に頭蓋骨固めを決める
何故か無抵抗の月見里君を少女から引き離し小鳥遊君が叫ぶ

「逃げろ、部田」

「え?」

「いいから逃げろ、部田」

逃げろ、と言う割には月見里君を引き摺り
自ら遠のいて行く小鳥遊君の行動に少女は訳が分からない
同じく、訳が分からない月見里君がくぐもる声で言う

「なんでなんでー?」
「あ、部田、また明日ねー」

「お前に明日なんかねえ!」

「だから、なんでなんでー?」

尚も頭蓋骨固めを決めつつ
月見里君を引き摺る小鳥遊君を見送りながら
少女は「抜く」と、いう言葉の意味を叔母に聞こうと思ったが
小鳥遊君の激昂振りを見て危険な気がしたので諦めた

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫