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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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第四話 気づいてしまった





僕達はまた地下鉄を乗り継いで、目的地へと向かった。園山さんは「秘密です」と言って、どこへ行くのかは教えてくれなかった。どこへ行くんだろう。


バーガー屋でも一度見たけど、園山さんのお財布は黒の革製のもので、「女性にしては珍しいけど、シックな服や鞄が似合う園山さんらしいな」、と思った。

今日の園山さんは膝下までの黒いプリーツスカートに白いブラウス、それから黒いジャケットを羽織っていて、ブラウスの衿元には緑色の細いリボンタイが結ばれていた。

可愛い服もきっと似合うだろうけど、奥ゆかしい服装をするのも園山さんらしい、と僕は思いながら、園山さんのスカートの裾あたりを見ていた。

それから、あんまりじろじろと見てはいけないと思って、電車の広告など読みながら、僕は考えていた。


「秘密」とは言われたけど、僕たちはどこに行くんだろう?


かわいらしいスイーツのお店かな?でもそれはあまり秘密にする必要がないような気がする。

美術館か博物館だろうか?それも言えない場所ではないなあ。

もしかして、意表を突いてゲームセンターとか?でも、それならさっきバーガー屋に入った駅前にもあったし、これも秘密にする必要はないなあ。


うーん、わからない。


僕は、地下鉄の乗り換えの時に、隣を歩く園山さんの表情を窺う。彼女は楽しそうだったけど、学校にいる時と同じような、どこか引き締まった顔をしていた。

もしかして、これから行く所はどこか園山さんにとって重大な場所なんだろうか?

そうは思っても、それは僕には思い当たる場所はない。園山さんは、あまり自分のことは話したがらないので、大学の図書館で雑談をする時も、僕ばかり喋っている。


そういえば、学校で園山さんが勉強している哲学って、どんな勉強が必要なのかな。


僕はいろいろな勉強をしてみて、それこそ技術職の人が手に取るような専門書を読んだこともあったけど、哲学には手を付けていなかった。なんとなくだけど、「漠然とした観念を扱う」というようなイメージがある。

「あの、園山さん」

僕は、駅のホームのざわめきや、流れて来るアナウンスに邪魔されないように、少し大きな声で園山さんに話しかける。

「はい?」

「あの…園山さんが勉強してる哲学って、どんな学問なんですか?僕、よくわからなくて…」

僕がそう言うと、園山さんはびっくりして、そのままそこで立ち止まってしまった。彼女は顎に手を当てて俯き、何か重大な一事について考え込んでいるように、眉間に皺を寄せる。

「え…すごく難しいんですか…?」

すぐに言うのを躊躇するような難しい説明なのだろうか?僕はそう思って、悪いことを聞いたかな、と考えていた。


「…はい、すごく難しい質問です…」


「えっ…?」

やっとのことでそう言った園山さんは、仰天する答えを出してきた。僕の質問が難しいってどういうことだろう?

「そんなに説明しにくい学問なんですか?」

園山さんは駅の雑踏の中、静かで厳かな空気をまとって顔を上げ、厳しいとも言えるほど真剣な表情で頷いた。僕はそれに気圧されて、何も言えなくなってしまう。

「…だから、「哲学する」ということも、とても難しいことなんです。私はまだできていません。いつか、それがやりたいんです」

そう言う園山さんは、入学式の挨拶をしていた時のように真摯な眼差しで、僕を見つめていた。でもそれは、僕を鏡として、自分に言い聞かせているような風だった。

僕には園山さんの決意の内容は詳しくはわからなかったけど、彼女が、とてもじゃないけど人間業ではできないようなことを目指していることだけはわかった。


すごいなあ、この人は。大きな目標を見つけて、それに、そこから逃げないんだ。


僕がそう思って黙ったままでいると、彼女の背後に、僕達が降りた路線の次の列車が滑り込んできた。


電車がレールと擦れ合う轟音に彼女は驚いて振り向き、また僕の方を向いた時には、いつもの彼女に戻っていた。


「すみません!急に変な空気にしてしまって!早く行きましょう!」

彼女は気まずそうに顔を赤くして、僕を見ながらエスカレーターを指差す。

「はい」