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短編集75(過去作品)

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うそつき



                 うそつき


 今日は月曜日。何の変哲のない月曜日。会社に行くと午前中は、バタバタと仕事をこなし、気がつけば夕方近くになっている。
 自分の仕事以外が多いのも月曜日の特徴だ。人からまわってくる仕事が来なければ結局時間が空いてしまうので、それはそれでいいことなのかも知れない。だが、一番の充実感を感じるのが月曜日というのも、なぜかおかしな話である。
 充実感というよりも、ホッとしているというのが強い。土曜日曜と休みがあって、月曜日から、また同じように仕事ができるかというのも、一つの不安だろう。金曜日でキッチリ仕事が終えられればいいのだが、そんなことは希で、残した仕事を気にしながら過ごす週末の味気なさのまま月曜日を迎えるのだ。他の仕事をこなしながら、やっと終わる先週の仕事、それだけでも、ホッとするというものである。
 成田一幸は、そんな気持ちを持って月曜日を終えるのだ。
 仕事は地元では大手の商社に勤めている。大手といわれる総合商社の傘下に入り、株式もかなりの出資をしてもらっている。さすがに吸収合併が行われた時は大変で、どうなることかと思われたが、現在はリストラも一段落、ある意味一番安心できる会社でもある。
 そんな成田も仕事が終われば、誰もいない自宅へ寂しく帰るだけであった。たまに同僚から呑みに誘われることもあるが、元々アルコールの苦手な成田は、週末か翌日が祝日でもないと呑むことをしない。
 最近はそれほど忙しくもないせいか、帰りの時間はそれほど狂うことはない。会社から自宅まで電車と徒歩で約四十分、通勤距離としてはちょうどいいのではなかろうか。
「いやいや、お前なんて近い方だよ」
 と言うやつもいるが、一人でアパートを借りていての通勤は、こんなものだろう。これ以上近くなると家賃がグンと跳ね上がるし、遠いと今度はきつくなる。自分の持ち家ならそれでもいいかも知れないが、そうでもないならちょうどいい距離には違いない。
 季節は定時の六時に会社を出て、部屋に帰りつく頃にはすでに日が暮れている頃だ。もっとも、途中のスーパーで買い物でもしていけば、さらに遅くなるだろう。だが、ちょうど住んでいるところの一階に、コンビニが開店したことで、それほど遅くなることはない。部屋に帰りつくまでに午後七時を回ることはないだろう。
 だが少しでも残業をすれば、帰って来る頃は真っ暗、駅に到着した時点で、駅前は夜の街に変わっている。
 成田にとっての夜の街は、ただの帰宅の通り道でしかない。途中にある炉端焼き屋のおいしそうな香りに誘われて、お腹が鳴ることもあるのだが、誘惑を断ち切ることも彼にはできるのだ。
「そんなに急いで帰って、誰か女の人でも待ってるんですか?」
 と後輩から面白がられることもある。
 しかし、
「そんなバカなことあるわけないじゃないか」
 と軽くいなしているが、本当に帰っても冷たい部屋が待っているだけである。そんな時の成田は、暗い部屋を思い出して、苦笑いをするだけだった。
 最近はそれほど遅くなることもなくなり、遅くとも七時半には帰宅している。
 そんな成田は、暗い部屋に入るわけだが、部屋にはカーテンが閉まっていて、空気が通っていない、一瞬ムッとした暑い空気が中から漏れてくるが、すぐに部屋に冷たい空気が入ってきて、そのまま冷えてくるのを感じる。
 かすかに明るい時間帯であるなら、電気のスイッチを見つけるのは、比較的楽だ。だが、最近は電気をつけなくとも、明かりが点滅しているのである。
「ツーツー」
 かすかに音がしている。玄関の少し奥まったところに電話機が置いてあるのだが、それが点滅しているようだ。
 それは、最近毎日である。
 あれはいつの頃からだっただろうか? 一ヶ月くらい経ってはいないだろうか? ほとんど毎日、留守電が入っているのである。
「きっと今日もだろうな」
 最初こそ気持ち悪いと思ったが、最近はそうでもない。部屋がかすかにでも明るくなり始めたからだろうか。いや、少しの薄暗さの方が、却って気持ち悪い。慣れて来たのかも知れない。
 初めてその留守電が入っているのを見た時、
――おや? 間違い電話だろう――
 と直感した。何しろ、知り合いには携帯電話の番号は教えているが、自宅の電話は教えていない。しかも自宅に掛けてくることを思えば、携帯電話の方がよほど手っ取り早いのではないか。最近は荷物の届けも携帯電話に掛かってくる。親にでも、
「掛けてくるなら携帯に掛けてくれ」
 と言っているくらいだ。
 光っている電話機は、それほど大きなものではない。となりにはファックス機も置いてありそちらも光っているのだが、玄関からは見ることができない。奇妙に光っているのが浮き上がって見えるだけである。
 気持ち悪さも慣れてくると、
――またか――
 で終わってしまう。毎回同じこと、靴を脱いで玄関を通り抜け、電話機の録音ブタンを押し待っているが、
「プープー」
 録音メッセージはそれだけだ。しかもすべてのメッセージがいつも確認する二時間前、何とも不可思議である。
 例えば、必ず午後五時とかいうのであれば分かるのである。しかし、帰り着いて録音メッセージを聞く時間が午後七時半であれば、メッセージが入った時間は午後五時半、聴く時間が午後七時であるならば、入った時間が午後五時と、確実に二時間前なのだ。
 実に不思議だ。どこかから誰かが見ていて、帰宅と同時にかけてくるというのならまだしも、成田が帰宅する時間が誰にも分かりっこないのだ。当の成田にしても、大体仕事が終わる時間を予測できるとしても、帰りつく正確な時間まで分からないだろう。なぜなら、その時の気分でコンビニで買い物を済ませることもあれば、スーパーに寄ることもある。実際にスーパーに寄って帰宅時間が七時半を過ぎることがあっても、留守電に記録されている時間は午後五時半すぎである。まるで超能力者のように、成田の行動を予期しているようだ。
 これが気持ち悪くなくて何なのだろう。
「気にするな」
 という方が無理で、それができるほど成田の神経は図太くない。
 スーパーに寄って買い物をしたのも意図的なものだった。少しでも時間をずらせばどうなるのだろうという疑問の元に、買い物して帰ったのだ。しかし、それでも結果は最悪、ハッキリと気持ち悪さを感じる結果になってしまった。
 それでも、最近はそれほど気にもならなくなっていた。ただの偶然で片付けられない気もするが、別に実害があるわけではない。だが、毎日というのではなく定期的なもので、必ず月曜日には掛かっているというのはどういうことであろうか? 疑問は果てしなく残っている。
 電話機自体は、ナンバーディスプレイのようなものではなく、かなり昔の電話機である。大学入学の時に買ったもので、最初はそれでも高価なものに感じた。買いなおせばいいのかも知れないが、携帯電話を使うことが多くなった昨今、あまり利用することのない固定電話をわざわざ買いなおすのももったいないというものだ。それでも、
――ずっとこんなことが続くようであれば、買いなおさないといけないだろうな――
 と感じている。
作品名:短編集75(過去作品) 作家名:森本晃次