205号室にいる 探偵奇談23
逃げられない夜
自転車に乗ってアパートに向かう。深夜のその建物は、闇の中で異質な存在感を放っていた。音もない鉄筋コンクリート造りの遺物。勇気を振り絞り、潤は敷地内に入る。もちろん人の気配など皆無だ。
「和多田、尾花…」
震える足取りで懐中電灯をかざし、階段を登る。205号室の扉の前には。
「!」
潤は悲鳴を飲み込む。
新たに活けられた花と。
そして見覚えのある靴が、片方ずつ落ちている。赤いのは和多田のスニーカーで、もう一足のローファーは尾花のものだ。やはり二人は、ここに。
ノブを握る。回す。開いた…。
動画撮影のときに来たときと、何ら変わりのない古アパート。
ぎー ぎー ぎー
奥から響いてくるあの音。懐中電灯を向けずともわかる。闇の中で、天井の電気に紐を掛け首を吊った女が揺れている。
「ご、ごめんなさい…」
すうーっと音もなく、女の身体が下りて来る。足が床に着くのがわかる。
「ごめんなさい、俺たち…わ、悪ふざけでこんな…!」
漆黒の影は、首に縄を掛けたまま、こちらへ向かって踏み出す。一歩。
「ごめんなさい!」
二歩。
「う、うわあああ!」
作品名:205号室にいる 探偵奇談23 作家名:ひなた眞白