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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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響くがままに、未来 探偵奇談22 後編

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いま一度色づく



夏の夜は消え去り、瑞は一人、白黒の景色に立っていた。空だけが赤い。ここはそう、夕島柊也の世界。色のない、憎しみと執着にのみ彩られた世界だ。

見たことのない、光景。川があって、橋があって、その麓に町が見える。瑞は山の高台から、その様子を見降ろしている。

「ここは、俺が一番初めに失った風景だ」

背後に、夕島柊也が立っていた。お役目様、神末穂積が彼の魂を、瑞のもとに呼び寄せたのだ。夕島は、学ランのポケットに手をつっこんだまま、じっとその町を見下ろしている。風に吹かれた髪に隠れて横顔が見えない。風にさえ、色や温度がない。

「たぶん、おまえの願いとやらが叶って、なかったことにされた俺の幸せがあった場所」

それは、初めて「やり直した」瞬間の話だ。彼とは本当に、物語の始まりから繋がっていたことになる。

「…もう、思い出せない。すごく幸せだった、という感覚しか」

いつものように尖った声ではなく、諦めたような、静かで抑揚のない口調だった。

穂積は言った。彼の気持ちを聞こう、と。

だから瑞は、黙って耳を傾ける。

「ここから何度も再構築したんだ。いつの時代も、俺は幸福になるべく努力した。思い出せないけど、そうだったはずだ。でも、幸福にはなれないことが決まっていたんだ。あと少しで人生を幸福に全うできる、そんなときに死は訪れる。そういう仕組み。意地悪い運命だろ」

空が歪み、町の景色は壁紙がはがれるようにしてめくれていく。その奥には漆黒しかない。

「また、一から。最初から。でも努力は報われない。俺は生を全う出来ないまま幾度死んだだろう」