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もうひとつの小説帝銀事件


 
このブログはそろそろ二千か三千が盗んで何十万か知った頃だと思うんだけど、なかなか表面化しねえなあ。もちろん読むやつ読むやつみんな、自分が書いたことにしようと企むからとわかっているが、一体どこに臨界点があるのやら。一万盗んで百万人が知るくらいかな。
 
おれとしては6月中にシチューの鍋が吹きこぼれるみたいにブワーッといくと思っていたんだけれども、こない。圧力鍋なんだな。百度で沸騰することがなく、いつか蓋が吹き飛ぶときまで何百度にも加熱される。おかげでオーケンが遠藤誠の本にどう騙されたかをゆっくり検証することができたし、セーチョーが朝鮮戦争を韓国が先に攻め込んだと信じてるほどイカレてるのを明らかにできたと言えるが、しかしねえ。
 
まあ、理由のもうひとつは作者がおれと知る者がほんのわずかしかおらず、その20か30人が決して誰にも言わないからというのもわかっていたことなので、
 
画像:ノベリスト転載版表紙 
https://novelist.jp/90442.html
 
見てわかるよう、このブログをここに転載することにしました。皆さんどうかよろしく。
 
で、帝銀事件ですが、図書館のコンピュータで《小説帝銀事件》と打って検索かけると、セーチョーの『小説』とともに、
 
画像:毒殺 小説・帝銀事件表紙
 
こんな本が出てきたので借りてみました。今回はこれを取り上げてみましょう。
 
『毒殺 小説・帝銀事件』廣済堂出版・1999年。著者の金井貴一ってのは、どうやら、
 
画像:金井貴一プロフィール
 
こんな人らしい。読んでみると、事件が起きて刑事が現場に駆け付ける。もちろん帝銀椎名町支店だ。十ものホトケが転がる中を入っていくと、
 
   *
 
 最初に眼についたのは、あちこちの机に露出したまま置かれてある現金の束であった。
 事務室の中央から少し奥まったところに、支店長のものとおぼしき大きな机がある。更にその奥に机が三つ並んでいた。紙幣はそのあたりの机にまとまって置かれてある。この一角が出納係のポジションなのであろう。
 ひとつの机の上に、高さ四十五センチ、長さ九十センチほどの整理棚があって、ここには帯封をした百円紙幣、五十円紙幣、十円紙幣、五円紙幣、一円紙幣がきちんと整理して入れられてあった。
 その脇に張り出し窓がある。ここには高さ四十五センチくらいの木箱が置いてあった。蓋をあけると紙幣の束が見えた。百円紙幣と十円紙幣の束が二、三十束はあった。
(当時使われていたのは尺貫法だが、以後表記はすべてメートル法に改めた―作者)
 他にも小銭を入れた紙箱が、机のうえに無造作に置かれてある。もし犯人の狙いが金を奪うことなら、これらの紙幣に手をつけていないのは、どういうことを意味するのか。
「おかしいな。これは単なる強盗殺人事件じゃなさそうだぞ」
 
   *
 
こんな文にぶつかった。さらに読んでいくと、
 
   *
 
(略)盗難金額は十八万千八百五十五円三十五銭と判明した。
 ただ作業が進むにつれて、関係者が首をひねったのは、手つかずで残されている金額の多さであった。
 出納係田端矩一の机に置かれた、カルトンの中の八万千二十円八十銭は無事に残っていたし、出納係長渡辺義正の机に置かれた木箱の中の三十四万三千円も手つかずである。そのほか出納係の机の上や整理棚に、百円紙幣、五十円紙幣、十円紙幣が無造作に置かれていたが、これも手をつけた痕跡がない。
 十数人もの人を毒殺した犯人が、ちょっと捜せばすぐ見つかるところにある現金に、なぜ手をつけなかったのか。検証に立ち会った係官はしきりに首を捻った。
 残された現金が五十六万六千五百四十円余りなのに対し、盗難金額は十八万千八百五十五円三十五銭。犯人は盗んだ金の三倍もの現金に、まったく手をつけずに逃走しているのである。
「あわてて、手近なものだけひっ掴んで逃げたのだろう」
 係官の一人は言ったが、殺人時に見せた犯人の落ち着き払った態度からすると、そのときだけ狼狽えたとはとうてい思えないのである。
 
   *
 
と書いてあるところがあった。
 
おっと、そう言やこのブログの2回目に書いたっきり忘れていたが、これだよこれ。『警視庁重大事件100』って本に、
 
   *
 
そして男は、近くに置いてあった現金16万4450円と1万7450円の小切手を奪って逃走。だが、簡単に奪える場所にあったほかの現金には、なぜか手をつけなかった。
 
画像:警視庁重大事件100表紙
 
と書いてあるけどしかしってな話をしましたね。この〈なぜか〉がGHQ実験説の根拠になっているという。
 
それがこれだよ。この通り、具体的な記述にめぐり会えたのであらためてあの話のおさらいをしましょう。
 
現場に強奪された額の三倍ものカネがあった。カネ目当てならカネを残すはずがない。カネ目当てに見せかけるため少しばかり持っていったということなのに違いないから目的は別ということで、毒の実験以外に何が考えられる。だから平沢は無実なのだ……。
 
というのがGHQ実験説を唱える者らの主張というのは書きましたね。多くの人が疑問を持たずに頷いたように、オーケンならば簡単にこれで納得するでしょう。
 
「客観的な状況を見れば、答えは明らかですね」
 
とか言っちゃって。けれどもおれの推論は前に書きましたね。1600枚のお札は重さ2キロになるだろうし、カバンには他に、『刑事一代』に載っていた画をスキャンしたものを見せるが、
 
画像:犯人の似寄り品
 
画像:刑事一代
 
こんなものを入れなきゃいけない。左端(四)はただの水が入っていたと見られている500mlくらいのビンだ。それに湯呑み一個を入れたらカバンはもう一杯だろうし、全体の重さは4キロにもなるだろう。平沢はこれ以上はもう小切手一枚しか持てないものと判断したと見るのが妥当だ、と。
 
さらにもうひとつ見せよう。参考までに薄めの文庫本を16冊積んでみたけど、
 
画像:文庫本16冊その他
 
こうだ。本だけで2470グラムだったが、どうでしょう。本ではなくてお札なら、五十束でもこのくらいのバッグに入ると思いますか。重さもこれで4キロになるわけないと思いますか。
 
ねえ。て言うか、おれはあのとき、
 
   *
 
その当時には風呂敷が普通に使われていたのですから、きっとその現場にも目につくとこに一枚くらいあったでしょう。「自分なら必ず包んで持っていく。合計が8キロだろうとなんだろうと」でもお思いになればいいんじゃありませんか。
 
   *
 
と書いたけど、考えたらあれは全部が百円札としての話だった。
 
でも今これを書きながらに気がついたけど、他に五十円札や十円札や五円札があるんじゃん。それ合わせたら8キロどころか、20キロにもなるんじゃないのか?
 
そしてもし、硬貨まで持っていくとしたらどれだけの重さになるか見当もつかない。あなた、どう思いますか。平沢ならば総重量が100キロだろうと担いで持ってくに違いない。18万だけだなんて絶対にない。だから無実という考えに、まだオーケンのように「そうだそうだ」と頷きますか。
 
作品名:端数報告 作家名:島田信之