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そうだったのか!あしたのジョー2


 
今回、申し訳ないけれど、帝銀事件と直接関係ない話です。直接関係ないけれども間接的には関係のある話です。
 
もちろん、前回ここに書いたセーチョーの、
 
アフェリエイト:日本の黒い霧
 
なんですが。これの〈謀略朝鮮戦争〉。セーチョーは韓国が先に38度線を越えて北に攻め入ったと主張してるという話。
 
で、さて、おれは例によって図書館に行き、
 
アフェリエイト:そうだったのか!朝鮮半島
 
こんな本を借りてきました。池上彰・著。2014年、集英社。B5のムック本でしたが、朝鮮戦争の勃発を見ると、
 
画像:そうだったのか朝鮮半島40ページ
 
こんなふうに書いてある。こんなふうに書いてあるけど、何書いてんだこの池上彰というオッサンは。
 
《朝鮮戦争の開戦当初は、南北どちらが先に攻撃したかをめぐり論争が起きましたが、こうした客観的な状況を見れば、答えは明らかです。》
 
だって? うん、もちろんその通りかもしれないけれど、しかしおれに言わせりゃあ、
 
「だから韓国が朝の4時に38度線を先に越えて北に攻め入ったとしても、30分で全部やられて5時に10万の敵軍がドーッとなだれ込んでくるなんてあるわけねーだろ! 朝5時に!! 時間考えろ時間を!!!」
 
となるわけで、それ考えたら韓国が先に攻撃仕掛けたなんてバカらしいとわかるはずだ。別にこんなつまらんことを長々と書いて、《こうした客観的な状況を見れば》うんぬんとやる必要なんかない。これに関して証拠――それも、ただの状況証拠に過ぎないものなど別にひとつも必要ない。それがわからねーのか、まったく。ただ勉強ができるだけの頭デッカチはこれだからよう。
 
と言いたいが、それでもこのオッサンが正しいのはわかりますね。今では朝鮮戦争を、韓国が先にやったと信じるようなやつはいない。
 
と思う。滅多に。中にはまあ、いるかもしれんが周防正行くらいでしょう。『それでもキムはやってない』なんて映画をいつか撮ってほしいですね。
 
埼京線は最強だぜ。池上線は池上だぜ。と上坂すみれさんも歌に歌っている通り、歌ってないかもしれないが、マルクス主義に支えられた軍隊はかつて最強と信じられた。ゆえに松本清張は、金日成ならばできると信じ込んだ。
 
金日成(キムイルソン)と言ってもそれがどういうやつか、たぶんあなたは知らないでしょう。おれも知らない。朝鮮戦争については『あしたのジョー2』の、金龍飛(きんりゅうひ)の話以外でよく知らない。
 
昭和の昔はだいたいみんなそんなもんだ。韓国と言えば歴代の大統領みんながみんな悪いやつだから悪い国。金龍飛があんなやつなのも韓国が悪い国だから、というイメージで、朝鮮戦争は韓国がアメリカとやったもんだと思っていた。
 
北朝鮮なんて国があること自体、金日成とかいうのが死んで国民が嘆き悲しむ光景をニュースで見て初めて知った。
 
それがおれだ。いま思うにあの日泣いてた者達は、泣くマネして見せなければ強制収容所行きと知ってて悲しむフリをしていたのに違いないけど、それが1994年7月。池上彰の『そうだったのか!』には、
 
   *
 
 一九九四年七月八日、突如として金日成が死去します。八二歳でした。北朝鮮政府は死去の翌日、公式発表し、死因は過労による心筋梗塞で執務中に死去したと報じました。
 (略)
 葬儀は国葬として金正日主導のもと七月一一日に首都平壌で行われました。当日は北朝鮮全土から大勢の国民が集まり、人々が一斉に泣き崩れる様子がテレビで報じられました。
 
  *
 
と書いてある。
 
金日成は知らなくても、その息子の金正日(キムジョンイル)は皆さんよく御存知でしょう。『そうだったのか!』には、
 
   *
 
 金日成主席の死去に伴い、金正日体制がスタートします。
 この新しい指導者がまず直面したのが、食料危機でした。一九九五年から九八年にかけて、天候不良と洪水が続き、北朝鮮の農業は大打撃を受けます。
「地上の楽園」と謳い、「世界で最も幸福に暮らしている」はずの国の人々が、食料不足に悩まされ、餓死者も出ている、という情報が、中国に逃れてきた難民から伝わってくるようになりました。
 (略)
 この食料危機で死亡した住民は、三〇〇万人に達するという衝撃的な数字があります。
 
   *
 
と書かれているが、それにより、おれもようやく韓国と中国の間にキタチョーセンミンシュシュギジンミンキョーワコクという名の国があることを気づかされた記憶がある。同時に核開発についてもたびたび報道されるようになり、そして1997年、『そうだったのか!』に、
 
   *
 
 一九九七年、脱北して韓国に亡命した北朝鮮元工作員、安明進が「行方不明になっている横田めぐみさんを北朝鮮国内で見た」と証言し、これを機に、家族は実名を公表して救出運動を行うことを決断します。
 (略)
 ここから事態は動き始めます。
 
   *
 
とあるが、それまであまり取り沙汰されていなかった日本人拉致の話がこのとき表面化して、いよいよ隣の半島の北半分がとんでもないところだと多くの人が認識することになる。おれも普通の人間だからそのひとりだったわけだ。
 
が、それまでは先に引用した文に、
 
《「地上の楽園」と謳い、「世界で最も幸福に暮らしている」はずの国》
 
とあるように、北朝鮮を知ってる人はそこを「地上の楽園」で「世界で最も幸福に暮らしている」国と信じていたわけだ。セーチョーがそのひとりだったことに疑いはない。1992年に死んだときには国の内実はファイトクラブのルールと違ってほとんど外に漏れておらず、おれが前回ここに、
 
   *
 
(略)着々と金日成の指導によって基礎が固まり、工業生産力の建設となった。これは北朝鮮の記録にはもっと讃美的な修辞で書かれているが、公平に考えてあまり間違いはないように思える。何となれば、北朝鮮では南朝鮮のようなストライキや暴動や暗殺などが見られないからである。重工業建設のために一般の農民の「不平」が宣伝されているくらいなもので、南朝鮮側のような暗黒的な印象は、北朝鮮側からは受けないのだ。
 
   *
 
と引用したように、最後まで信じ込んでいたのだろう。
 
にしてもねえ。おれもこないだこれ読んで初めて知ったわけだけれど、朝鮮戦争。開戦当初は南北どちらが先に攻撃したのかで論争が起きてたんですか。まあわかる。勃発当日の情報が錯綜している状況で、〈アカハタ〉が『韓国が先にやった』と書くのもわかるが、でもねえ、やっぱり、おれに言わせりゃ、
 
「だから朝4時に韓国が先に始めたけど、30分でやられて5時に10万が……」
 
なんてありえねえじゃん、と。そう考えるやつはいなかったのか? 池上彰はやたら細かい《客観的な状況》とやらを書き連ねて「答えは明らか」と言うけれど、じゃあ一体答えはどっちだと言うんだよ。まだやっぱり「北が先だ」と自分ではハッキリ言うことができないわけか。
 
作品名:端数報告 作家名:島田信之