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よ う こ そ

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(十二)初夏の訪れ


 勲と彩香の遠距離交流は年を越した。
 暮れに、子どもたちへのクリスマスプレゼントとともに、勲宛てにノートパソコンが送られてきた。地区の事務所にあるパソコンをみんなで共有していることに対する彩香の配慮だった。おかげで、誰はばかることなく使用できるようになった。すると、富田家の居間では、彩香とのテレビ電話が開通した。もちろん多くは春子がその前を陣取っているのだが。
 
 
 やがて春が来て地面が顔を出し始めた頃、別荘建築予定地に工事業者が出入りするようになった。測量が終わり、地鎮祭には勲一家が彩香の名代で参列した。以降はすべて業者に任せる形で工事は進められた。
「父さん、建物が見えるよ! 来て」
「ああ、今日は建前だったな。酒でも持って様子を見てこよう」
 夕方戻ってきた勲は、喜美子に報告した。
「彩香さんはこちらに来られない分、業者の方にはずいぶんと手厚く心付けをしているみたいだった。俺たちが気を使うことはなさそうだ」
 だんだんと形になっていく建物を、遠いわが家から毎日のように春子は眺めていた。
「楽しみだなあ。あれができたらおばさんあそこに住むんだよね?」
「春子、あれは別荘と言って、遊びに来る時に泊まるところなんだ。だからずっといるわけではないさ」
 そう言う茂に春子はむきになった。
「父さん、ちがうよね? あれはおばさんのお家だよね?」
「さあ、どうなるかな。こっちの冬はキツイから、少なくとも冬はいないだろうな」
 
 
 本州が梅雨に入った頃、別荘は完成した。梅雨のない北海道では、地区を挙げてお祝いの話が持ち上がっていた。なぜなら、別荘の建築と同時に、地区の集会所のリフォームも完成したからだ。もちろん、施工主は彩香だった。別荘の建築で迷惑をかけるお詫びという名目である。
 
 出来上がった別荘は、ゆったりとした5LDKの立派なものだった。しかし、外観は質素で自然に馴染むように設計されていた。むしろ、集会所の方が見かけも良く、みんなが使いやすいように細かいところまで工夫されていた。
 新築祝が催される前日、彩香と光代、それからばあや夫婦が多くの荷物とともに到着した。大勢の業者を引き連れてきたので、その日のうちに片づけも終わり、一行は明日に備えて体を休めた。
 
 そして翌日、大きく、そして新しくなった集会所で地区を挙げての大宴会が催された。
 
 
 それから二日、北海道を満喫してばあや夫婦は帰途につき、彩香と光代の北海道暮らしがスタートした。春子は学校が終わると、まっすぐ彩香の別荘に帰宅する日々。いつのまにか別荘に春子の部屋ができていた。
 そして、家に帰ってからも部屋の窓から遠くに浮かぶ別荘を眺めていた。
 
 ある日、いつものように帰る時間が来て寂しそうにうつむく春子に、彩香がこんな話をした。
「春ちゃん、『赤毛のアン』というお話の中でね、仲良しのお友だち同士が遠くに見えるお互いの家の窓で、ろうそくの光を合図にお話をしたのよ。その頃は電話がまだなかったからだけど、ステキだと思わない?」
「春子もやりたい」
「じゃ、ろうそくは危ないから、このライトを光らせましょうか」
 そう言って、彩香はペンライトを渡した。
 家に帰った春子は早速窓辺でペンライトを振ってみた。すると、別荘の窓からも光が返ってきた。
「ねえ、見て見て!」
 家族全員を捕まえては、うれしそうにそれを見せた。
 そして寝る時、もう一度光らせてみた。すると、4回光が点滅した。
「お・や・す・みの合図だな」
 それを見た茂が言った。
「そうだねきっと、兄ちゃん。春子もやってみる」
 この日から、それが春子の寝る前の習慣になった。
 一方彩香も、小さなかわいい友におやすみを告げた後、しばらくの間、満天の星が輝く夜空を眺めるのが日課となった。

作品名:よ う こ そ 作家名:鏡湖