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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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不良娘はピンクボム4


 酔っぱらいと化したビビを止めようとモルガンが魔法を放つ。
「スパイダーネット!」
 広がったネットがビビの頭から覆い被さって来ようとする。
 ビビは手に持っていた大鎌をフリスビーのように投げた。
「あははははは!」
 ビューン!
 凄まじい勢いでぶっ飛んだ大鎌は回転しながらネットを切り裂き、さらに勢いは留まらず風を切りながら、集まっていた人々目掛けて飛んでいった。
 危ない!
 大鎌がオッサンの頭部を掠め飛んだ。
 なんという逆モヒカン!
 オッサンは大鎌に髪の毛を切られ、お外に出られない髪型にされてしまった。
 それでも大鎌の勢いはまだまだ収まることを知らない。
 人々の服や髪を切り裂き大鎌は踊り狂った。
 たちまち悲鳴の大合唱。
 ポロリン、ポロリン、またポロリン♪
 みなさんのご想像にお任せするモノが次々とポロリンしていく!
 それにしても血の一滴も流れず、服と髪だけを切り裂く絶妙なコントロール。今のビビなら鎌投げ大会で金メダル間違いなしだ。そんな大会あるかわからないが。
 グルグル回った大鎌がビビの手元に戻ってきた。回転する大鎌を見事にキャッチするとは、鎌取り大会で金メダル間違いなしだ。そんな大会あるかわからないが。
「あはは、なんでみんな裸なのぉー?」
 自分でやったんだろ!
 そんなツッコミ酔いどれに言っても意味がない。
 モルガンが鎌の付いたギターを握った。
 目には目を、歯には歯を、鎌には鎌を!
「大人しくしなシェリル!」
 モルガンの鎌ギターが振り下ろされる。
 ガツ!
 ビビの大鎌の柄がモルガンの鎌の柄になっているギターのネックを受け止めた。
 ギターをそんな使い方したら絶対に調律が狂う!
 てゆか、ギターは武器じゃないという苦情は受け付けない。なぜなら、エレキギターは太古の昔から武器だからだ。それの証拠に、過激なギタリストはよくギターを振り回して武器にするし、ときには燃やしたりするわ、観客に投げつけたりもする。
 どう考えてもエレキギターは武器である!
 力押しでモルガンが鎌ギターをブンブン振り回す。娘を殺る気満々だ。
 一方のビビは酔拳を駆使する。
 ゆらり、ゆらりと捉えようのない動き。かと思うと速攻を仕掛け、やっぱり仕掛けないで、やっぱり仕掛ける。
「あははは、ママに遊んでもらうのひさしぶりー!」
 ビビが空中に飛び上がり、意味なくバク転。ついでに意味もなくパンチラ。今日は白と黒のストライプ(ちっちゃなリボン付き)だ。
 トリッキーなビビの動きに翻弄されるモルガンは武術で競うことをやめた。
「シェリル歌で勝負するよッ!」
「歌大スキー、あはは!」
 ビビはこんな状態で歌えるのか?
 ギターを構えるモルガン。やっとギター本来の使い方をされる。
 空を飛んだりすることからもうご存じかも知れないが、このギターは魔導具であり、演奏は魔力を帯びる。
 ガンガンにギターを掻き鳴らしはじめると、ギターの音のほかにドラムやベースの音も響いてきた。
 大きく息を吸い込み、モルガンは力強い歌声を吐き出した。
 怒り渦巻く感情が歌声に宿っている。
 歌声によって大地が震え、建物を揺るがす。
 攻撃と威圧のサウンドが破壊をもたらし、さらに不気味さと苦しさや痛みのサウンドが人々に恐怖をもたらす。
 それは戦の歌であり、その先にある死を暗示していた。
 間奏に入りモルガンはビビに視線を送った。
「アズラエル一族は死の一族って言われてることはシェリルも知ってんだろ。アタシらは魂を狩ることによって強大な力を得ることができる。今じゃ契約だなんだで、好き勝手に魂を狩ることは禁止されちまってるけど、それ以前の血塗られた歴史は怨念で渦巻いてるのさ。この歌はそういった負の塊なんだよ」
 再びモルガンの歌声が響く。
 街の隙間に悪寒のする風が吹き荒む。
 建物が腐食しはじめた。
 騒ぎを駆けつけた治安官たちがやって来たが、歌声を近くで聞いた途端、気分が悪くなってその場でうずくまってしまった。
 バルコニーから人が飛び降りようとしている。
 街灯にロープを引っかけて首をつろうとしている人がいる。
 負の魔力がこもった歌は人々の心を蝕み闇を生み出す。
 親子歌合戦が王都アステアを未曾有の恐怖で呑み込もうとしている。親子歌合戦って言葉の響きだけなら、グダグダな番組企画みたいなのに。
 ビビは大鎌からマイクスタンドに持ち替えた。
 ついにビビが歌い出すのか!?
「ひっく……あーあーマイクテストチュー……チューだって、チューって、チューってなにそれ、あははは、あははははは!」
 だめだ、酔ってて話にならない。
 このままでは歌合戦にならないじゃないか。これじゃあワンマンライブだ。企画倒れになってしまうではないか!
 せっかく中継カメラで撮影しているのに!!
 マラソン大会の取材でたまたま居合わせたテレビ局が、モルガンの歌声をあろうことか臨時の生放送で国中に流していたのだ。
 このままでは国中で自殺祭りが起きてしまう。
 即刻放送を中止させようと局や王宮も動いたが、歌の持つ魔力で聞きたくないのに聞いてしまうというしがらみに囚われてしまっていた。
 臨時決議によって魔導部隊が編成され現場に派遣されたが、歌声と演奏を生の間近で聞くと精神が負に蝕まれなにもできなくなってしまった。もうモルガンに近付くことすらままならない状態なのだ。
 だがそんな中でカーシャは余裕で現場にやって来ていた。
 街中で蝕まれ倒れる人々に目を配るカーシャ。
「精神力の低い小童どもには堪えるか(いや、そういうわけでもないのか)」
 カーシャに腕をつかまれルーファスは引きずられて来た。
「あたまがガンガンするよぉ、あのおばちゃんのうたうるさくてこわいよぉ」
「(怖がっておるが、ほかの者に比べれば影響が少ない。ほう、逆に精神の未熟な子供は、影響される精神も持ち合わせていないと言うことか)」
 街中、国中が危機に陥っている中で、カーシャはその対応を決めかねていた。アステア王国が滅びてもカーシャは悲しんだり心が痛いんだりしないが、ほかに困ることがあったりした。
「ふふっ、楽しみが減るな」
 長い眠りから覚めたカーシャの今の楽しみは、ルーファスウォッチングと悠々自適な学院生活だ。それを考えるとこの街が滅びるのは困る。やっぱりカーシャは利己的なのである。
 ルーファスとカーシャに気づいたビビが、二人のもとに駆け寄ってきた。
「あははははは!」
 笑いながらビビはルーファスに抱きついた。
 そして、笑いながらルーファスの体を締め上げる。
「あははは、ルーちゃん元気っきー?」
「いたいよぉ。おねえたんはなしてよぉ」
「どーちたのルーちゃん、しゃべり方カワイイ〜っ♪」
 二人の様子を見ながらカーシャはおでこに手を当てた。
「ビビまでどうしたのだ、まさか酔っておるのではなかろうな?(ふふっ、笑えん)」
「酔ってないデース!」
 酔ってる人は必ずそう言う。
 カーシャはルーファスからビビを引き離し、ビビのツインテールを両手でつかんで拘束した。
「よく聞けビビ。おまえの母親が起こした問題だ、子供のおまえがどうにかするのだ(できれば妾はなにもしたくないのでな)」