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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

INDEX|45ページ/110ページ|

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「日々忙しい生活をしていると、どうでもいいことは忘れてしまうんだ。1対1ってなんの話だい?」
 ローゼンクロイツもそれに続いた。
「……覚えてない(ふあふあ)」
 数秒の間があった。
「「てめぇら!!」」
 オル&ロスは双頭犬のように吠えた。
 だがもう負け犬。
 グルグル巻きの双子を同じ所に運び、クラウスは2人から黄色い卵を奪った。
「悪く思わないでくれよ。政治もそうだが、勝たなければなんの意味もないんだ」
 奪った卵を地面に投げつけると、中からドーム型避難所ができた。人が横になれるくらいの大きさで、双子を放り込むだけなら十分の大きさだ。
 まだなんか吠えている双子を中に押し込み、ドームのドアを閉じてしまった。まだ、なんか中で吠えているが放置。
 3人は山頂を目指して、再び先を急いだ。

 山頂への道はまだまだ遠い。
 ルーファスはカイロが切れそうだったので、新しいカイロに張り替えようとしていた。
「どうしようかなぁ、6時間用使っちゃおうかな」
 横からクラウスが口を挿んだ。
「なに迷ってるんだ? 使えばいいだろ」
「だってもったいないじゃないか。こういうのはやっぱり30分のを使い切ってから使うべきだよ」
 そんなルーファスの横で、ローゼンクロイツもカイロを取り替えようとしていた。もちろん6時間用だ。ルーファスみたいなケチ臭いことは言わない。
 ローゼンクロイツはお腹に捲り、張ってあったカイロをポイッとして、新しいカイロをペタッとした。
 雪に上に捨てられたカイロをクラウスが拾う。
「ダメだろ捨てたら。自然環境を壊す気か?」
「……持ち帰るのダルイ(ふぅ)」
 ものすごく嫌そうな顔を作るローゼンクロイツ。
 それを見てクラウスは、
「わかったよ、僕が持ち帰る(まったく環境問題のことなにも考えてないんだな)」
 少しプンプンしているクラウスを見て、ルーファスは使い終わったカイロをポケットにしまった。
 ――自分のもお願い♪
 なんて気持ちが過ぎったのは言えない。
 自分のゴミは自分で持ち帰りましょう!
 ゴミのポイ捨てはやめましょう!
 マナーです!!
 カイロを張り替えたところで再出発だ。
 3人が歩き出そうとしたそのとき、ローゼンクロイツが気配を感じて振り返った。
「……なんかいる(ふあふあ)」
 ルーファスとクラウスも、ローゼンクロイツを見ている場所をズームアップ。
 雪に混ざってわかりづらいが、白いモッサモッサした毛が見える。
 モッサモッサ毛の下から、まん丸の瞳が覗いた。
 サルのような顔をしている何かがコッチを見ている。
 ちっちゃくて丸っこい、絵に描いたようにカワイイサルだ。しかも白い。
 ……クラウスがひらめいた。
「珍獣ホワイキーだ!(まさか本当にいるなんて!)」
 感動に興奮して目を輝かせるクラウス。
 だが、ルーファスにはイマイチ伝わらない。
「なにそれ?」
「グラーシュ山脈の珍獣ホワイキーだよ! 目撃情報は何度かあったけど、その詳細な情報はなにひとつわかっていない、未確認生物なんだ!」
「ただの白いサルじゃなくて?」
「なにを言ってるんだ、サルじゃなくてホワイキーだよ。目撃情報によると空も飛ぶらしい!」
「はぁ?」
 もうなんだかルーファス置いてけぼり。
 クラウスは先を独走しすぎ。
 ローゼンクロイツは最初から興味なし。
 しばらくその場をじっとしていたホワイキーが走り出した。その後姿に生えた尻尾は体長よりも長いかもしれない。
 カメラを構えたクラウスも走り出した。追ってルーファスとローゼンクロイツも走る。
 足場の悪い雪山をホワイキーは難なく走り抜ける。
 必死になってクラウスは追った。その後に続く二人も必死……なのはルーファスだけ。
 ローゼンクロイツは余裕でクラウスの横につけている。
「エナジーチェーンで捕獲すればいいのに(ふあふあ)」
「動きが早い。なにより傷つけないか心配だ」
 そう言いながらクラウスはカメラのシャッターを切る。けれど、相手のスピードも速く、こっちも走っているのでどうしてもブレる。
 ローゼンクロイツは大気中のマナを手に溜めた。
「なら、スパイダーネット(ふにふに)」
 蜘蛛の糸のような物質がローゼンクロイツの掌から放たれた。それは飛ばされた直後は細かったが、次第に大きく広がり風呂敷を広げたように大きくなった。
 物体をキャッチする面積も大きく、軽くて柔らかいので物体を傷つけることもない。ただし、軽いために広がると放たれた速度がゆっくりになる。つまりパラシュートと同じ現象になる。
 遠く離れた場所や後ろからは効果が望めないのだ。
 大きく広がったスパイダーネットはホワイキーを外し、風に乗ってローゼンクロイツの後ろに行ってしまった。
「ああっ!」
 なにやら前を走る二人の後ろのほうで、なんか聞こえたような気がした。
 後ろを向くとルーファスがスパイダーネットに捕まっていた。
 だがクラウスは気付かず、ホワイキーを追って姿を消してしまった。
 運良く気付いたローゼンクロイツがルーファスに駆け寄る。
「ごめん(ふあふあ)」
「ごめんはいいから早く解いて」
 ネットに捕らえられた拍子に転倒し、その勢いでネットが身体と絡まってしまった。
 ローゼンクロイツは指先から小さなカマイタチを出し、少しずつルーファスを傷つけないようにネットを切っていく。ものすごく地味で根気の要る作業だ。
「……飽きた(ふぅ)」
 根気が持たなかったらしい。ローゼンクロイツは手を止めてしまった。
「ちょっとやめないでよ!」
「あとは自分でやるといいよ(ふあふあ)」
「腕が固定されて指先も変な方向向いてるからムリ。てゆーか、君がやったんだから、最後までちゃんとやってよ」
「でも……飽きた(ふぅ)」
「じゃあせめて私の手が自由に動くくらいでいいからさー」
「だから……飽きた(ふぅ)」
 頑張ってお願いしてもムリなような気がしてきた。
 ルーファスピンチ?
 ネットに絡まった状態でどうしろと?
 そんなルーファスに再び不穏なピンチが近づいていた。
 ローゼンクロイツが耳をそばだてる。
「地鳴りが聴こえるよ(ふあふあ)」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ……。
 山を見上げると、雪煙をあげて雪崩が起きているのが見えた。
 困ったことにコッチに迫っている。
 予想を超えた雪崩のスピードと身動きのできないルーファス。
 雪崩はすぐそこまで迫っていた。
 ローゼンクロイツのエメラルドグリーンの瞳が輝き、五芒星の光が宿った。
「ライララライラ、レッドフレア!(ふにふに)」
 古代魔導ライラだが、詩が不完全でマナが集まらない。雪崩が早すぎて詩を詠むヒマがなかったのだ。
 ローゼンクロイツの両手が放ったフレアが、雪崩を溶かしながら吹き飛ばす!
 だが、雪崩の勢いが強い。
 ローゼンクロイツがボソッと呟く。
「……ムリ(ふー)」
 ムリです宣言!
「ぎゃぁぁぁっ!!」
 ルーファスの叫び声。
 その直後、白い煙がルーファスたちを丸呑みにしてしまったのだった。