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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 音色に驚いたのか、赤ん坊の泣き声がどこからか聴こえた。
 泣き声のする床板に手を掛けるとすぐに外れた。なんと、そこには頑丈な作りの宝箱。そして、中から現れたのは幼い赤ん坊だった。
 ついにアリッサを発見できたのだ。
 見つけ出したアリッサをクラウスが抱きかかえると、防波堤を壊したように大泣きされてしまった。慌ててエルザにアリッサを任せると、アリッサはエルザに抱かれて静かになった。
 困惑しているクラウスにエルザは微笑みかけた。
「クラウス様はいつも眉間に皺を寄せています。そんな顔をしていたら子供に泣かれるのは当然でしょう」
「そんなに僕はいつも眉間に皺を寄せているかい?(そんなつもりはないんだが)」
「ええ、クラウス様が眉間に皺を寄せていないのはルーファスと一緒にいるときくらいです」
「そうか」
 もっと難しい顔をしてクラウスは黙り込んでしまった。
 エルザが持参していたミルクをアリッサに与えると、アリッサは無邪気に笑顔を浮かべてくれた。その笑顔を見た二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「クラウス様、この子を連れて早く宿に戻りましょう」
「そうだな、母親の喜ぶ顔を早く見たい」
 アリッサをエルザに任せ、クラウスは果敢にも先陣を切って礼拝堂に外に出る。途端に襲って来たアンデッドどもをなぎ払った。
「やはり外で待ち構えていたのか」
 聖なる力が働いてアンデッドたちは礼拝堂に近づけず、礼拝堂の外でクラウスたちが出てくるのを、息を潜めて狙っていたのだろう。
 エルザもアリッサを抱きかかえながら剣を抜いた。
 アンデッドを切り裂くエルザの剣技。しかし、胴を切り落とされても、アンデッドは妄執に取り付かれ、なおもエルザたちに襲い掛かってくる。
 アンデットをそこまで駆り立てるものは何なのか?
 そんなアンデッドたちの姿を見て、クラウスは居た堪れない気持ちになる。
「(この者たちも元は人間。戦乱の中で死してアンデッドと化したのだろう)」
 死の呪いのよって、成仏できぬまま彷徨い続けるアンデッドたち。
 しかし、もうこの者達は生者ではない。
 無限の可能性を秘めた未来を持っている者は、エルザの胸に抱かれた幼いアリッサだ。
 クラウスの剣がアンデッドを斬る。
 輝き塵と化すアンデッドたちは成仏できるのだろうか?
 せめて最期の時は苦しまずに……。
 願いを込めてクラウスは剣を振るった。
 そして、クラウスは見たのだ。
 アンデッドが塵と化す刹那のとき、安らかな表情を浮かべていたのを――。
 気がつくと、辺りからアンデッドたちの気配は消えていた。
 鞘に剣を収めたクラウスはまた眉間に皺を寄せて難しい表情をしていた。

 子供たちを全員救出し、宿で合流したクラウスたち。
 クライストン夫人は嬉し涙を流しながら、何度何度もクラウスたちにお礼を言って立ち去った。
 仕事を終えた後の一杯の酒を喉に流すオルガス。
「くぅ、今日の酒は極上だな」
 隣ではバンガードが寡黙に酒を飲んでいる。
 なんとも言えない充実感に浸る者たちの中、クラウスだけは難しい顔をしていた。
 そんなクラウスにほろ酔いのエリーナが酒を勧める。
「クラウス様も難しい顔してないで一杯やりましょう」
「僕はまだ酒の飲める年じゃない」
 酒を断るクラウスにエリーナは強引に酒をついで渡した。
「お忘れですか? 今日はクラウス様の15歳の誕生日なのですよ」
 ハッとしたようにクラウスは口を小さくあけた。
「そうか……忘れていた。15歳か、酒の飲める年だな」
 アステア王国では15歳以上に飲酒が認められている。
 地ビールを注がれたグラスを受け取ったクラウスは、それを一気に喉に流し込んだ。
 そして、難しい顔で眉間に皺を寄せたのだった。
 それを見た周りの者達がどっと笑い出す。
 クラウスもそれに釣られて静かにはにかんだ。
 君主がいつも笑顔でいられるように、エルザは忠誠を再確認して胸に誓ったのだった。

悪霊の棲む城(完)