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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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華の建国記念祭4


 青空に浮かんだように見える丸い帽子。
 ハナコがこちらを覗き込んでいる。
 気絶からやっと目を覚ましたルーファス。
「ううっ……ここどこ?」
 枕とは違う柔らかさを持っていて、とても心が安まるような温かさ……。
「膝枕!?」
 ルーファスは顔を隠して慌てて飛び起きた。
「大丈夫ですかルーファスさん?」
「だ、大丈夫です!(さっきと同じパターンだ)」
 どうやらまたベンチで膝枕をされていたらしい。
 とりあえず目を覚ます前の記憶は舞台に上がったあたりから途切れている。
 気絶する前から緊張で記憶が飛んでいたのだ。
「のど自慢大会はどうなったの?」
 ルーファスが尋ねると、
「セットが壊れ、運営者も病院に運ばれたことから一時中止になりました」
「ぼ、ぼくのせい?」
「はい、そのとおりです。怒った観客が暴動を起こしてルーファスさんを襲おうとしましたが、どうにかわたくしがお連れて逃げて参りました」
「あ、ありがとう」
 逃げ切ったのはいいが、今度のことが心配だ。
 ぐったりしたルーファス。
「もう十分すぎるくらいお祭りを満喫したし……帰ろうかな?」
「さあ参りましょう」
 華麗にスルー。
 祭りが終わるまで解放されないかもしれない。
 会場に戻り、今度はなにをやらされるのかとドッキドキのルーファス。ハナコがなにを見つけないのを祈るばかりだ。
「ルーファスさん、あれを見てください!」
 見つけてしまったか……。
 ハナコが指差す垂れ幕を見てルーファスはゾッとした。
「あれは無理だから、絶対に僕なんかじゃ無理だから勘弁してよぉ!」
「そんなことありません。やる気があればなんでもできます。夢はきっと叶うんです」
「べつに夢じゃないし」
「それに噂によると魔導学院に通っていらっしゃるとか」
「噂じゃなくて私自身が君に言ったんだけど」
「魔導学院の生徒さんならきっと良い成績を残せるでしょう!」
「だから無理だってあんなの!」
 ルーファスがビシッと指差した垂れ幕には、『天下一魔闘会〜アステア王杯〜』の文字が。
 魔導な盛んなアステア王国では、魔導の腕を競い合う大会が多く開かれている。その中でも天下一魔闘会とは、魔導だけはなく肉体も駆使した、魔導+武闘の格闘技大会なのだ。

「花火と喧嘩は王都の華と言われていますから、きっと楽しめると思いますよ」
「そんな言葉あったっけ?」
「今考えました」
「そ、そうなんだ……でもとにかく少年漫画みたいなバトルは私にはムリだよ」
 たしかにバトルマンガにルーファスは向かないだろう。
 そんなバトルマンガによくある展開がルーファスを待ち受けているのだ。
 もやしっ子のルーファスがそんな大会に出場したら……。
「殺されるよ。ルール上は殺人とかダメってなってるけど、魔法を食らった痛いし、殴られたら痛いし」
「それでも男ですか、軟弱者!」
 バッシーン!
 ハナコの平手打ちがルーファスの頬に炸裂。
 ルーファス気絶。
 軟弱すぎるルーファスだった。

「それでは予選、第3回戦――はじめ!」
 レフリーの声でルーファスはパッと目が覚めた。
 気づいたらリングの上。
 目の前にはよく知ってる先輩の姿。
「すまないなルーファス。たが私はここで負けるわけにはいかない(今年こそはクラウス様の前で優勝してみせる!)」
 クラウスの護衛任務などをしているエリート中のエリート魔剣士エルザだった。
 今日はルール上、剣こそ装備していないが、普通にやってルーファスが勝てる相手ではなかった。
「えっ、えええ〜っ!?(なんでエルザさんと戦うハメになってるの!?)」
 しかもリング脇にはカーシャの姿まであった。
「負けたら承知せんぞルーファス!」
 エルザとカーシャは仲が悪い。そんなことにまで巻き込まれてしまったルーファス。
 さらにハナコからエールが飛ぶ。
「負けても勝っても結婚しましょうね!」
 もう雁字搦[ガンジガラ]めで逃げられない感じだ。
 ルール上は負けを認めるか、ダウンするか、リングから落ちると負けになる。
 ここでもし負けを宣言したら、きっとカーシャに殺られる。
 言い訳をするためにも、善戦をしなくてはいけなかった。
 かと言ってルーファスはひとに攻撃を仕掛けるようなマネはしたくなかった。
 そこで取った行動は、やっぱり逃げる!
「エルザさん攻撃しないでくださぁ〜い!」
「逃げるくらいなら負けを認めろルーファス!」
 ルーファスはチラッとカーシャを見た。
「(ルーファス、負けたらヌッコロスぞ……ふふふっ)」
 口に出さなくてもカーシャの声はちゃんとルーファスに伝わった。
 エルザが魔法を繰り出そうとしていた。
「すまんなルーファス、できる限り痛くはしないつもりだ」
「痛いのイヤです」
「ピコ・エアボール!」
 空気の塊がドッジボールのようにエルザから投げられた。
 ルーファスは昔からドッジボールで逃げるのだけは得意だった。
「うわっ!?」
 叫びながら紙一重でエアボールをかわした。
「まだまだゆくぞルーファス! ピコ・エアボール3連発!」
 バレーのレシーブのようにバシン、バシン、バシンっとエアボールを飛ばした。
「痛いのイヤです!」
 ルーファスは必死に1発目をかわし、2発目もかわしたが、3発目は逃げたその場所に飛んできた。
「ぐわっ!」
 腹を殴られたような衝撃。
 ルーファスの身体がリングサイドギリギリまで吹っ飛んだ。
 かかとがリングからはみ出し落ちそうになる。
「おっととととと……落ち……ない!」
 ルーファスはどうにか踏ん張った。
 さっきのエルザの攻撃は最初の2発が誘導だったのだ。わざと相手に逃げ道をつくることにより、逃げ場を絞り込んだのだ。
 エルザが構えた。
「食らえルーファス!」
 リングサイドでもう一度エアボールを食らったら、確実にリングアウトだ!
「エルザさんのヒミツ言いますよ!!」
 咄嗟にルーファスの口を突いて出た。
 思わずエルザの動きが止まった。
「なにを言う気なのだルーファス?」
「エルザさんの初恋の相手も知ってますし、どうやってフラられたかも知ってますし、はじめてのチューの相手とその場所も僕は知ってるんですよ!!」
「ひ、卑怯だぞルーファス!」
 慌て出すエルザ。
 そのようすを見ていたカーシャはルーファスに親指を立てて見せた。
「グッジョブだルーファス(ぜひ妾もエルザの弱みをつかみたいものだ)」
 まさかの卑怯な戦法にエルザは葛藤した。
「(こんなところで負けるわけには……)」
 しかし、エルザの目にチラッと入ったその姿。
「(クラウス様!?)」
 クラウスが予選の視察に来ていたのだ。
 エルザは戦意を失った。
「私の負けだ。ルーファスに勝ちを譲る。しかしルーファス、今後の試合で無様な戦いを見せたら承知せんぞ!」
「は、はい!」
 なんか勝ってしまった。
 しかもスゴイプレッシャーを掛けられた。
 勝ったのにちっとも嬉しくない。
 ルーファスが試合を終えて戻ってくると、別のリングではファウストとセイメイが激突していた。
 魔導学院の教師対決だ!
 黒魔術を得意とするファウストと東方魔導の使い手セイメイ。
 ファウストは間合いを取る。