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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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華の建国記念祭3


 青空に浮かんだように見える丸い帽子。
 ハナコがこちらを覗き込んでいる。
 気絶からやっと目を覚ましたルーファス。
「ううっ……ここどこ?」
 枕とは違う柔らかさを持っていて、とても心が安まるような温かさ……。
「膝枕!?」
 ルーファスは顔を隠して慌てて飛び起きた。
「大丈夫ですかルーファスさん?」
「だ、大丈夫です!」
 ベンチに座っているハナコの姿。ここで膝枕をされていたようだ。
 で、ここってどこ?
 賑わいを見せるお祭り会場が少し遠くに見える。木陰にあるベンチで休んでいたようだ。
「あれ……大食い大会は?」
「もう終わりましたよ。ローゼンクロイツという方が予選を突破して決勝戦でも大差を付けて優勝しました」
「私は気絶したんだよね? 医者に変なこと……」
「黒衣のお医者さんに貞操を奪われそうになっていましたが、どうにかわたくしが連れて逃げました」
「(……貞操って)あ、ありがとう」
 いったいディーはルーファスになにをしようとしたんだ?
 というか、ハナコはルーファスを連れてよく逃げられたものだ。
 ルーファスはぐったりしながらハナコの横に腰掛けた。
「はぁ……お祭りなんて来るんじゃなかった」
「わたくしはよかったですよ」
 やさしい顔をしていたハナコを見て、ルーファスはふっと笑みを溢した。
「そうだね」
「では次の場所に参りましょう」
「は?(なんかもう十分満喫したというか、疲れたんだけど)」
 断固としてベンチから立ちたくないルーファス。
 ハナコはガシッとルーファスの腕をつかんでグイグイっと引っ張った。
「まだまだお祭りはこれからですよ」
「そ、それはそうなんだけど……」
 二人がこんなやり取りをしていると、そこへある女性が現れた。
「まあ、ルーファス。そこにいるUFOハットのお嬢さんは彼女さんかしら?」
 ルーファスの母親ディーナだった。
 ……また家族に見られた。
「はい、婚約者です」
 またこのパターン!!
 慌ててルーファスが割って入った。
「違うから、今日初めて会ったひとだから!」
 否定はしてみたが、ちゃんとディーナに伝わっただろうか?
「今日初めて会ったのに結婚なんて、ルーファスも隅に置けないわね、うふっ」
 伝わってなかった。
 勘違いの修正がめんどくさいので、ルーファスは話題を変えることにした。
「ところで母さん、なにしてるの?」
「それがローザとはぐれてしまって困っていたところなの」
「(家族と会うなら、せめてローザにだけ会いたかった)そうなんだ、いっしょに探そうか?」
「そんな悪いわ、彼女とのデートを邪魔しちゃ。それじゃあまたねルーファス、ファイト♪」
 両手にこぶしを握って応援された。
 恥ずかしさのあまりルーファス大ダメージ。
 もうルーファスは一刻も自宅に早く帰りたかった。
 王都を挙げてのお祭りで規模も大きいのに、なんで知り合いに高確率で会うのだろうか?
 ルーファスは変な方向に運が良いらしい。
「それでは参りましょう、次はお父様にご挨拶ですね」
 突然なにを言い出すんだこのハナコは。
「どういうこと?」
「結婚をするのであれば、ご家族全員に会うのが筋かと」
「会わなくていいから、それよりお祭りはどうするの?」
「あっ、そうですね。今はお祭りのほうが大事でした。ではなにか楽しいことを探しに参りましょう」
「…………(しまった)」
 父親との面会は避けたが、代わりにやっぱりお祭りからは逃げられなかった。
 再びお祭り会場に戻ったハナコはさっそく楽しいことを見つけたようだ。
「ルーファスさんあれを見てください。のど自慢大会ですって」
「……まさか」
「ぜひ出場してください。わたくし歌も大好きですから」
「自分が出ればいいんじゃ?」
「大変です、早くしないと受付が終了してしまいます!」
 ぜんぜんルーファスの話を聞いてなかった。
 そんなわけで強制的にエントリーさせられたルーファス。
「……最悪だ、歌とか苦手なんだけど」
 考えただけでお腹が痛くなったきた。
「大丈夫ですよルーファスさん。歌は魂さえこもっていればみんなに伝わります」
「そういうものかなぁ」
「そういうものです」
「ジャイアントゴーダっていう歌手は魂で歌ってるけど、ひどい音痴って話だよ。話に聞くと、その歌声は生きとし生けるものを震え上がらせて、発する音波はガラスをも砕き、戦場でその歌を聞いた敵の兵士たちは絶叫しながら死んでいったとか」
「あ、予選がはじまりましたよ」
 ぜんぜんルーファスの話を聞いていなかった。
 老若男女が出場するのど自慢大会では、歌のバリエーションも豊富だ。
 流行りの曲からムード歌謡まで、楽しそうだったり、真剣そうに歌っている。
 そんな出場者たちのヤル気を見て、どんどんヤル気が失われていくルーファス。
「やだなぁ、みんなの前で歌うなんて恥ずかしいよ」
 お腹が不穏な音が立てている。
 ここでルーファスはある重大なことに気づいた。
「そういえばなにを歌えばいいの?」
 勝手にエントリーを進めたのはハナコで、その際に曲目も勝手に決められていた。
「それはイントロがかかってからのお楽しみです」
「いやいやいやいや、歌えない曲だったりすると困るし、少しは練習しておきたいんだけど?」
「大丈夫ですよ、歌は魂ですから」
 ぎゅるるる〜っとルーファスのお腹は激しく不穏な音を鳴らした。
 出たくもない歌自慢に出ることになり、曲目も本番までヒミツという嬉しくないサプライズ付き。ルーファスは今にも即倒しそうだった。
 そんなルーファスの耳に聞き覚えのある歌声が届いた。
 舞台裏からそっと会場を覗くと、そこには一族の証である赤系の髪色――ローズ色の髪をなびかせて歌っているローザの姿があった、
 澄み渡る清らかな歌声。ローザが歌っているのは聖歌だった。
 老人たちがローザに向かって拝んでいる。
「ローザ姉さん、また歌がうまくなってるなぁ」
 感心するルーファスの顔をハナコが見た。
「あの方もルーファスさんのお姉さんなのですか?」
「私は3人姉弟なんだ。長女のリファリス姉さん、次女のローザ姉さん、そして私が3番目」
「わたくしとしたことが、お姉様となる方をもうひとり知らなかったなんて、今すぐご挨拶して参ります」
 舞台に飛びだそうとしたハナコの腕をルーファスはつかんだ。
「今歌ってる最中だから、あとにしようよね、あとにさ?」
「ご挨拶はなにかと早めに済ませておいた方が印象もよくなりますし」
「予選の邪魔した方が印象悪くなると思うけど」
「ルーファスさんがそこまでおっしゃるなら、今回は特別に妥協して差し上げましょう」
 なんか知らないけど上から目線。
 それにしてもローザの歌声はすばらしく、心が洗われる気分だ。もしもこの場所に犯罪者がいたら、自首しそうなくらい心に染みいる歌だ。
「じつは俺、さっき爺さんからサイフをすったんだ。だれか捕まえてくれよ!」
「実はオレも、オレオレ詐欺のリーダーなんだ!」
「俺なんて今から人殺しをしようと思ってたところなんだ」
「なんだよみんなそんなことぐらいで、俺なんて前科100犯の大悪党だぜ。早く捕まえてくれよ!!」
 なんかいっぱい釣れた。