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フリーソウルズ2

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序章



プロローグ(Scene.1)

月のない夜、山々の連なり。
夜空を飛行する3つの光。
光は三角の形を作り高速で移動する。
それぞれが接近し天頂でひとつの光になる。
眩しい光はさらに地上に向かって円錐状の光を放つ。
光のなかで浮遊する2つの影。
白っぽい犬と少年の影。



Scene.2
caption: 1986年1月

東欧アルメニア国立博物館
展示室のひとつにひと抱えほどの石板が展示してある。
銀髪を肩まで伸ばしたスーツの男が展示品を見ている。
その男の手には丸めた新聞紙。

”ハレー彗星まもなく最接近”

ちいさな記事の小見出しがみえる。
チャコールグレイのソフト帽を被った体格の良い男が展示室に小走りで入ってくる。
帽子をとって息を整える。

ソフト帽 「トランジットのある長旅は好きではない」
ソフト帽 「(展示品に近づき)これがイビサ碑文ですか?」

ソフト帽はハレー彗星の記事が銀髪の男から見えるよう、新聞を胸の高さに掲げる。

銀髪   「ええ。本物が公開されるのは14年ぶりだとか」
ソフト帽 「いや、初めて見ました。本物に出会えてよかった」
銀髪   「碑文の古代シュメール文字は長い間、判読されていませんでしたが・・・」
ソフト帽 「ドバイの少年が読み解いた。前に本物が公開された直後に」
銀髪   「主の御霊に触れてはならぬ、ですね」
ソフト帽 「いかにも」
銀髪   「少年はのちに述懐しています。あれは、誰かが曲解して広めたのだと。本当の意味は・・・」

碑文の古代シュメール文字の下にcaption

"ワレハアルジノイトナミヲサマタゲテハナラヌ
ワレノソンザイガオビヤカサレルトキハソノカギリニアラズ
ワレハワレノミデハナイ
ワレワレガテヲトリアウトキ、ソレハシンパンノトキデアル

ソフト帽 「この本当の意味を知っているのは、我々のみですか・・・」
銀髪   「碑文の意味もさることながら、ハレー彗星の周期ごとに碑文のもとに集まることのほうが意義深い」
ソフト帽 「まったく。その意味でいうと、あとひとり、まだ見かけませんね」

白い紙袋を抱えるように持って展示室に入ってくる博物館職員。

博物館職員「バロン上院議員と、ペリエ教授ですね」
銀髪・ソフト帽「いかにも(と頷く)」

博物館職員「イギリス領事館から電話がありまして、おふたりにこれをお渡しするようにと」

はにかむような表情で紙袋を男たちに差しだす職員。
袋の中に入れられていたものは両の手のひらに乗るくらいの木造船の模型である。

博物館職員「これは館内のスーベニールショップで売っているもので、この先のアララト山に流れついたという・・」
ソフト帽 「(被せ気味に)見ればわかる」

職員は肩をすくめ、”確かに手渡しましたよ”という仕草をしながら立ち去る。
銀髪の男は袋の中から模型を取り出す。
 
銀髪   「ノアの方舟、ですか」
ソフト帽 「ノア、ですね」

帽子を取り眉間を揉むようにつまむソフト帽の男。

ソフト帽 「嫌な予感がします」
銀髪   「同感です」
ソフト帽 「3名の代表がハレー彗星の夜にイビサの元に集まる。3千年続いた慣習なのに・・・」
銀髪   「わずか3千年しか続かなかった。そう思いたくはありませんね」
ソフト帽 「何のためのイビサ碑文だったのか」
銀髪   「希望を持ちましょう。もうすぐ世界規模で統一規格の通信網が完成します」
ソフト帽 「それで世界が変わると?」
銀髪   「変わります。互いに手を取り合いましょう」
ソフト帽 「楽天的ですね。どうしてそんなに楽観視できるのですか?」
銀髪   「さあ、どうしてでしょう」

博物館の壁面が夕陽の朱色に染まる。
まだ碧みが残る東の空に、宝石のような金星が輝く。



作品名:フリーソウルズ2 作家名:JAY-TA