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架空植物園2

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せっぷん草



世間ではバレンタインデーで盛り上がっている。私はそんな日に街に出たくはなかったので、カメラを持って近くにある公園に向かった。

土手をコンクリートで固めていない小川があって、川際に細い道がある。あたりの風景は枯れ色に染まっている寒いこの季節、数歩で上り下りできる土手には少しだけ春色の兆しが見えた。

私は首に提げたコンデジを持って近寄ってみた。どうやらヨモギのようだ。その他にも寒い季節向けのロゼット状の草もある。撮るまでもないかと持っていたカメラを胸ポケットに戻した。

しばらく歩く間に何人かの走る人に出会う。それぞれ走る目的が違うのだろうその顔に喜びの色が見えない。でも、顔の表情以上に身体が喜んでいるのかもしれないのだが。そんなことを考えながら歩いているうちに目的地の自然観察園が見えてきた。

中に入ってゆっくりと歩く。枯れ草と裸樹、少しだけ見える常緑樹。枯れて倒れている草と茎を見ても春と夏に咲いていた状態を思い出せない。でも樹の落ち葉と枯れ草の匂いは心を穏やかにしてくれる。

誰かがしゃがんで写真を撮っている姿が見えた。あの場所には節分草がある。咲いている季節ではある。私はカメラを取り出して近づいて行く。

樹の下に敷き詰められたように積もった枯葉の間に白い花が見える。思っていたより多い花数が溶け残った雪のようにも見えた。先客に「おう、いっぱい咲いてますねえ」と声をかけてカメラを構えた。初老の婦人が立ち上がり場所を空けてくれた。
「あっちより、ここのほうがいい」と婦人は言った。「ああ、ちゃんとこちらを向いてますね」と、私は写真を撮り始めた。

寒さに少し震えているようにも見える白い花びらと、上品な感じの薄紫色の蘂、黄色の花粉。小さい花なのでズームで拡大した状態が綺麗に見える。いっぱい咲いている割には蝶も蜂も姿が見えない。私はおもわず(めげずにガンバレよ)と心で声をかけた。いつの間にか婦人は立ち去っていて、私は池と湿地のある目指して歩く。

作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川