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まだ何者でもない、けれどまだ何者にでもなれるお年頃

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 それで子供でも出来たら子育てに全力を傾けるのかもしれない。
 そのどれも彩佳らしいと思う、それで良いんだ。
 高校二年生、十七歳。
 まだ何者でもないが、まだ何者にでもなれる。
 無限の可能性があるなんて甘っちょろいことは言わない、でも時間はまだたっぷりと残されている、何者かになろうとしなければ自然になれるものではない、全力でぶつかって行って玉砕するならそれはそれでいい、そこに払った努力と時間は何かを自分の中に残してくれるはずだ……。
 俺はそのことに妙に納得していた。

「あたしの顔、何かついてる?」
「いや、別に何も」
「ならいいの……それよりさ、クリスマスコンサートだけど」
『人生について語るタイム』はおしまい、彩佳の頭の中は今一番の関心事に戻ったってわけだ。
 多分、彩佳はその時々で一番興味があることに全力で突き進んで行くんだろう、これからもずっと。
 それで良いと思う、だから俺もそうするんだ……。

 黄色く色づいた銀杏の葉はクリスマスの頃にはすっかり落ちてしまうだろう、だけどそれは春に新しい葉をつけるための準備なんだ、落ちた葉はやがて銀杏の栄養となり、新しく付けた葉は日の光を一杯に浴びて銀杏に更なる成長の力を蓄える。
 音楽に傾けた情熱と時間は決して無駄にはならないはずだ、だから最後と決めたコンサートまで、俺も彩佳や仲間たちと一緒に全力を傾けるんだ。
 そう考えてにっこりすると、彩佳も屈託のない笑顔を返してくれた……お日様のような笑顔を。


               (終)