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根岸 郁男
根岸 郁男
novelistID. 64631
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クロッチのホームシック

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タイトル「クロッチのホームシック」
【登場猫】
クロッチ  今回の主猫公 (二歳)
しまくん  家猫 (十五歳・長寿猫)
ブッシー  外猫 食事と休憩に時々来る (推定五歳)
みーくん  家猫 (十四歳・長寿猫)
クロッチの母猫

〇路上 お昼頃
   猫の親子が日向ぼっこしている。
   反対方向方からクロッチが散歩で歩いてくる。が猫の親子をみてピタリと止まる。
   子猫が母猫に甘えてすりすりしている。
   子猫に頬を寄せる母猫、幸せそうな子猫
   見ているクロッチ。クロッチのアップに感慨深いものが(涙が)
   
〇 夕陽が差し込む堤防
   夕陽を浴びているクロッチの全景
   クロッチのアップ(前のシーンからのOL)
   クロッチの回想
〇 クロッチの住処(一年前)
   クロッチが目覚める、あたりを見渡すが母猫がいない
クロッチ「お母さん、どこにいるの」
   クロッチ、住処をでる。
〇 公園
   公園を探しているクロッチ
〇 夕暮れの公園
   クロッチ、水を飲んでいると親子の猫が通っていく
クロッチ「ひょっとしたらもう帰っているかも。」
   クロッチ、一目散に走る
〇 クロッチの住処
クロッチ「ただいま」
   クロッチ辺りを見渡すが母猫がいない。泣きそうになるクロッチ
〇雨の降る中を捜し歩くクロッチ
〇雪の降る中を探し歩くクロッチ
〇暗い土管の中を探すクロッチの顔は汚れている
〇藪の中を探し歩くクロッチの目は腫れている。
クロッチ「どこへ行ったのお母さん」
   クロッチの目は腫れあがっている
 (クロッチの回想終わり)

〇路上 
  ブッシーの前をとぼとぼと歩いているクロッチ
ブッシー「クロッチ、どこいってん、みんま待っとるで」
   クロッチ、聞こえないのか、とぼとぼ歩いている。
   ぽかんとしているブッシー

〇飼い主の家 猫たちの部屋
   とぼとぼ帰ってくるクロッチ、元気がない。
しまくん「(近づく)どないしたん、その顔は訳ありだな。さてはホームシックか」
クロッシー「うん。あっちも家に帰りたい、お母さんと一緒に暮らしたい。
もちろん、今の飼い主さんや、みんなには感謝している。感謝しても感謝しきれないほど感謝している。でも帰ってお母さんと一緒に暮らしたい。お母さんに甘えてみたい。」
しまくん「でもお母さんは帰ってこなかったんだろ」
クロッチ「うん」
   クロッチ、俯く
   ブッシー、がなにやら背中に風呂敷を担いで入ってくる。
ブッシー「どっこいしょ」
   ブッシー、座る
クロッシー「…だけど聞きたいこともあるんだ」
しまくん「聞きたいこと?」
クロッチ「うん」
   頷いたがそれ以上のことは’言わない。
ブッシ「だいだいサッシがつくけどね。そう思って、」
ブッシー「ちょっと待っててね」
   自分の風呂敷から何やら探しで何かを
取り出した。じゃーん。
ブッチ「ドラえもんじゃないけど…」
   四角い段ボールを取り出し組み立てる、
   目覚まし時計みたいなものをドライバーで取り付け
ブッシー「できたー。名付けてココニハイリナ。一年前のあの場所へタイムスリップできる代物さ」
しまくん「すんごい、どうやって入手したの」
ブッシー「それは秘密のあっこちゃん、さ」
ブッシー「クロッチ、行きたいかい。一年前の自分の生まれた場所へ。」
クロッチ「いきたーい」
ブッシー「お母さんに遭えるという保証はないけどいいかい」
クロッチ「いい」
ブッシー「じゃ、いくよ」
   目覚まし時計のぜんまいを回しスイッチを押すブッチ。
   
〇一年前のクロッチの住処 古びた倉庫(表)
   一軒家の隣に駐車場兼倉庫として使用していた古びた建物
〇 同 中
   古びた毛布の上で寝ているクロッチ。
   目を開けるクロッチ。
   起き上がるクロッチ、あたりを見渡す
クロッチ「お母さん」
   しかし母猫はいない。
   クロッチ毛布の中に蹲り泣く。
母猫の声「クロッチ」
   クロッチが振り向くとそこには母猫の姿が。
クロッチ「お母さん、やっぱりいたんだ」
   クロッチが母猫に抱き付こうとする
   と、すり抜けてつかめない。
   でも姿はある。再び抱き付こうとする、
   がやはり空気をつかむように母猫の実態はない。
   嬉しそうな顔から再び泣きそうな顔に一変する。
母猫の姿「「クロッチ、お母さんは今あなたの心の中にいるのよ。」
   訳が分からないクロッチ。
母猫「あなたの前にいて見えるのはあなたの幻想なの。あなたのそうあって欲しい、いう思いが幻想となってみえるのよ」
クロッチ「お母さんはもういないの?」
母猫「お母さんはいつだってあなたの心の中にいるわ。」
クロッチ「心の中にいて何故目の前にいないの、何故、突然私の前からいなくなったの。それが知りたい。ずっとずっと気になっていたんだ」
母猫「クロッチごめんね。あの時お母さんは重い病気になっていたの。あなたにお母さんの苦しむ姿を見せたくなかったの。だから悪いと思ったけどあなたには内緒ででかけたのよ。遠い遠いところへ。」
母猫「クロッチ、あなたが毎日毎日ご飯も食べないで目が悪くなるまでお母さんを探し回ったのも知ってるわ。(顔をちかづけ)でもあなたなら大丈夫。ちゃんと一人でやっていける。お母さんに似ておりこうさんなんだもの」
   頭をなでなでする。甘えるクロッチ。
クロッチ「あっちもお母さんのいる遠い遠いところへいきたい」
母猫「まだまだ、あなたは元気に生きなくちゃいけないわ。元気な猫は来ちゃいけないところなのよ。」
   いきなり、クロッチから離れる母猫。
   見ているクロッチ。
母猫「もうお母さんは帰らなくちゃいけないけど、あなたの目の病気を治しに病院へ連れていってくれた飼い主さんや仲間のブッシーやしまくん、みーくん、みーんなあなたのお友達にも感謝しなきゃだめよ。わかった?」
クロッチ「ほんとに、もういっちゃうの」
母猫「(にっこり)クロッチ、泣いてちゃだめよ。お母さんはいつでもあなたの心の中にいますからね」
   母猫、クロッチの胸を撫でる。
   クロッチ、母猫を見上げて「うん」と頷く。
   母猫、突然消える。
クロッチ「お母さん!」
   追いかけるクロッチ
〇 同 外
   小屋から出てくるクロッチ。
   母猫はいない、いつもと変わらぬ景色
   クロッチ、踵を返し、小屋の中に入る
   クロッチ、毛布の上で寝る
〇 飼い主の家 猫の部屋
   しまくん、ブッシ、みーくんがダンボール「ココニハイリナ」を囲んでみている。
   クロッチ、暗い段ボール(ここにはいりな)で目が覚める。
   クロッチ段ボールから顔を出す。
   自分を囲んでみているしまくん。ブッシー、みーくん。
しまくん、ブッシ、みーくん「クロッチお帰り」
クロッチ「みんなずーっとここで待ってたの?」
しまくん「ずーっと、ていったって時間にして十秒から二十秒だよ」
クロッチ「えー!一時間はあったよ」
ブッシ「時間短縮機能を使ったのさ。クロッチには一時間でもおれっちには十秒だよ」
みーくん「いいの、もってんな」