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今よりも一つ上の高みへ……(第一部)

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 迎えるバッターは主力組の三番に座っている武内。
 当然初球のサインはナックルだ。
 軽く右ひざを曲げてセットに入る雅美、相手はオープン戦で好調をキープしている将来の四番候補……そう思うと却って落ち着いて来た。
(打たれたら打たれたでしょうがない、今の力を試すには最高のバッターじゃない)
 そう自分に言い聞かせてナックルを投げ込んだ。
「ストライク!」
 審判の右手が上がる、それで更に落ち着いて二球目のナックルもストライク、そして三球目、続けざまに投げたナックルは左右に揺れながら外角低めへ落ちて行き、武内のバットは空を切った。
「バッター、アウト!」
 松田がうんうんと頷きながらボールを返して来た。
 そして迎えるのは四番の広田だ。
 初球のサインはストレート、雅美は頷いてストレートを投げ込んだ。
「ストライク!」
 広田はバットを出しかけて見送り、うんうんと小さく頷いてバットを構え直した。
(ほほう、トレーニングの成果が出てるじゃないか……)
 広田が思った以上にスピードがあり、手を出していたら凡打に終わっただろう。
 続く二球目はナックル、ボールにはなったが揺れながら落ちて来た、打ち気に行っていたら空振りか、良くても凡打だっただろうと思う、だがタイミングは掴んだ。
 三球目、真ん中に来たと思ったナックルは内角低めに曲がり落ちて来て、バットには当てたものの詰まった打球のサードゴロ、サードが難なくさばいてツーアウト。
 続く五番にはカウント3-2まで行ったが最後はナックルで空振りを取って三者凡退。
「いいぞ、首脳陣も手ごたえを感じてる表情だ」
 ベンチに戻ると松田が声をかけて来た。
 雅美も頷いてベンチに腰掛けたが、微笑むまでの余裕はなかった。

 若手組の攻撃も三者凡退で終わり、雅美は二イニング目のマウンドに上がった。
 予定は二イニング、この回を切り抜ければ幸先良くアピールできる。
(抑えたい……できるはずよ)
 そう自分に言い聞かせながら左バッターボックスに入った六番と相対した。
 初球はナックルが低めに外れた、二球目もナックル、真ん中高めに浮いてしまったが、シュートしながら外角へと落ちて行った、それを強振した六番の当たりは三遊間への高いバウンドのゴロ、ショートが捕球したが一塁には投げられない。
 最初に高橋が指摘した懸念材料が現実のものになった。
 やはり女子とはスイングスピードが違う、女子ならばあそこまで高いバウンドにはならない、飛んだコースは微妙だったから内野安打は仕方なかったとしても、ショートが投げられないほどではなかったはずだ。
 雅美はそれを痛感した。
 そして七番への初球はストレートのサイン、だがそれを読んでいたのかきっちりと捉えられたが、打球は僅かにファールラインの外。
 次のストレートが外れた後、投げ込んだナックルが少し高めに入り、バッターはフルスイングした。
 ややこすったような当たりだったが、高々と舞い上がった打球は風にも乗り、フェンスまで到達していたレフトは上を向いたまま打球を見送った。
 ホームラン。
 またしても懸念材料が現実のものとなり、雅美はマウンドに立ち尽くしていた。
 そして九番にもストレートを二塁打にされ、打順が一番に返ってもナックルを高いバウンドでファーストの頭の上を抜けるヒットにされ三失点目、そして再び迎えた武内にはほとんど変化しなかったナックルを軽々と持って行かれた……。
 二イニング目はワンアウトも取れずに五失点、雅美はそこで交代を告げられた。

「やっぱり無理だったんだわ、レベルが違い過ぎる」
「そんなことないって、クリーンアップはきっちり抑えたじゃないか」
「まぐれよ」
「いや、俺のリードも単調だったかも……」
「ストレートとナックルしかないんだもん、当たり前よ」
 試合後、すっかり意気消沈した雅美に松田はそれ以上かける言葉を失っていた……が。
「見事にやられたよ」
 わざわざ声を掛けに来てくれたのは広田だった。
「初球のストレートな、結構伸びてたぞ、トレーニングの成果が出たじゃないか」
「ありがとうございます、でもやっぱり130キロじゃ……」
「まあ、ストレートだけじゃ抑えられないのは確かだよ、だけど三球目のナックルな、俺はナックルを待ってたんだ、もらったと思って振って行ったらボテボテのゴロだ、手元でくっと落ちて行ったよ」
「でも……」
「『でも』じゃない、ルーキーがいきなり通用するほどプロは甘くないよ、俺だって一軍の試合に出られるようになったのは五年目だ、年齢でも君より一年遅い、君は良いものを持ってるよ、必ず成功するなんて甘いことは言わないが可能性は持ってる、それだけは忘れずに練習に励め、俺が言いたいのはそれだけだ」
 その言葉を聞いて、ずっとうつむいて涙目だった雅美は上を向くことができた……。