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浜っ子人生ーチッタゴンの墓標

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 それは想像を絶する苦難を乗り越え、ようやく救いの手に抱かれながらも、力尽き、失意と焦がれるような望郷の思いにさいなまれながら、異国の土となった同胞に捧げる哀悼の涙であると同時に、自らの境遇を顧みることなく、兵士達におしみなくそそがれた土地の人々の「人類愛」への深い涙でもあった。

 今まで見、体験してきたこの国の現実の悲惨さ、矛盾、そして違和感、これらがこの涙と共に拭い落とされて、人間同志としてこの国の人々の心が、はっきり見えて来た。
迫って来る暮れ色に染まりながら、僕等はこの碑の前で何時までも合掌していた。

 あの忌わしい戦争から既に半世紀以上になる。だが人の世では色々な争いが今も絶え間なく続けられているのが現実である。今僕が住んでいる複合民族社会・カナダもその例外ではない。

 この社会を構成する民族それぞれの慣習、思考、行動の相違、そしてその相違をお互いが認識し合って調和した社会を作って行く努力の欠如、こういうものが、ともすれば超え難い溝を社会のあちこちに掘り散らかし、歪みを作っている現実に触れる事も少なくない。豊かであるが故の醜さである。
 
 しかしそれでも、僕の心に灼き付いている、あのチッタゴンの墓標が、究極の「人間賛歌の証」として、僕に静かに語りかけてくれるのである。
               
                (完)