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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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星のラポール

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 部屋に帰る。この正体不明のミニチュア少女と共に。
「これが、あんたのブース?」
「ブース?」
「そう。見たところ、あんまりランク高くなさそう」
「うるさい。文句あるなら出て行け」
 俺は冷凍庫にビールを入れる。まずは風呂といきたいところだが、こいつをどうするか。大人の女なら扱い方は心得ている。だがサイズと言い見た目の年齢と言い、このまま脱ぎ散らかしてシャワールームに入るわけにもいかない。
「こういう文明もあるんだ」
 少女は物珍し気に部屋を見回している。
「俺は風呂に入る」
 とりあえずテレビのスイッチを入れる。「それでも見てろ」
「ホロじゃないんだ」
「いちいち、いちゃもんつけるな。ちょっとだけ待ってろ」
 着替えとタオルを持って、バスルームに入った。
 まったく、なんで自分の部屋で気を遣わないといけないんだ。
 興味本位でなにをしでかすか分からないため、手早くシャワーを浴びる。
 まあ、心配した通りだった。
「ね、これ何?」
 聞くより先に、なぜいじる?
 趣味で描いている絵の道具が散らばっている。少女は一番高いアクリル絵の具のチューブを捻り出してしまっていた。
 わき上がる怒りを抑える。感情に任せたら、壁に叩きつけて殺してしまいかねない。
「それに触るな。説明すると長くなる」
「そうなの? これって、服の素材じゃないの?」
「違う」
「ふうん。この色、好きだから、新しい服が作れると思ったのに」
 その表情がいかにも少女のもので、怒りは消えてしまった。
「絵具で服なんか作れないさ」
「そうなの? 万能素材じゃないのね」
 俺は、それを聞き流した。
「お前、腹は減ってないか?」
 冷蔵庫を開けながら訊く。
「腹?」
「お腹だよ」
 自分の腹を叩いて見せた。それでも少女は怪訝そうな顔をしている。
「何か、食べたくないのかと聞いてるんだ」
「ああ」
 それで、やっと少女は納得したようだった。だが、それに続く言葉に俺は驚く。「あなた達は直接に経口摂取するのね」
「食わないんなら、いい」
 冷蔵庫から食料を出すのはやめて、ビールだけを取る。コンビニ弁当をレンジで温めてソファ・ベッドに掛けた。
 まずは、風呂上がりの一杯だ。缶ビールの栓を開けて、一口飲む。
「なに、それ?」
「ビール」
「美味しいの?」
「ガキには無用だ」
「失礼ね、私は大人よ」
「それでムキになるのは、子どもだからだ」
「なんか、ムカつく」
 コンビニ弁当の唐揚げを口に入れる。それから、飯も。
「なんだか、いい匂い」
 少女が言う。
「食いたいのか?」
「私はいい。エーテルがあるから」
「エーテル?」
 少女が俺の顔を見る。
「ああ、あんた達の言葉では、気っていうのか」
「お前、心が読めるのか?」
「心を読む? そんなこと、出来るわけないじゃん」
「じゃあ、なんでわかった」
「だって、顔に書いてあるもん」
「書いてあるものか。お前は、心を読めるんだろう?」
 俺は、少女に対して淫靡な想像をしてみた。だが、全く反応を示さない。
 ふむ、心を読めないというのは本当らしい。
「で、お前」
「偉そうに、お前なんて言わないで」
「じゃ、チビ助」
「失礼極まるわ。私には、ノーチェって立派な名前があるの」
「自分で立派とか言うのか」
「自分で、自分の名前に誇りを持てなくてどうすんのよ、馬鹿」
「馬鹿は余計だ」
 俺は、ビールをぐいっと飲む。よく冷えた発泡性の液体が喉を通り過ぎる快感。
「ねえ、あんたにも名前くらいあるんでしょ?」
「まあな」
「私が先に名乗ったんだから、あんたも名乗るべきよ」
「なんでお前はそう上からモノを言う?」
「お前じゃなくて、ノーチェ」
「ああ、はいはい。ノーチェ。俺は航《ふなで》、沖野航。冗談みたいな名前だ」
「自分で、そんなこと言っちゃダメ」
「お前に説教されるいわれはない。それで、お前――ノーチェはどうしてさっき、泣いてたんだ?」
 小生意気だった少女の顔が歪む。
「だって、あんたとぶつかった拍子に、私は壁に当たって羽根が折れちゃったから」
「だから、帰れなくなったってわけか。そんな華奢な羽根で、高く飛べるのか?」
「これは発信機なの。力場を発生させて、それで飛ぶのよ。でも、折れちゃったから正常な力場を生めないの」
 また、ノーチェが泣きそうになる。
「他に、方法はないのか?」
「あることには、あるけど。こんなの想定してなかったし」
「それは、お前のミスだ」
「ねえ」
 ノーチェがビールを指して言う。「それ、ちょうだいよ」
「だから、こいつは――」
「あんたがどう思ってるか知らないけど、少なくとも私はあんたよりも年上よ」
「何歳だ?」
「知らない。忘れた」
「忘れた?」
「詳しい理論を説明したって、どうせ分からないでしょ? あんた達の時間の尺度は無意味だし、それでもって言うなら――」
「難しいことは嫌いだ。簡単に言ってくれ」
「この世界で換算したら……」
 ノーチェが宙を見る。「だいたい一万五千年ってとこかしら」
「超ババアじゃねえか」
「失礼ね、誰がババアよ!」
「ま、どっちにせよ、俺はお前には興味はない」
 白身フライを箸で切る。腹に何か入れないと、ビールだけで終わりそうだ。
「だから、私にもそれ、ちょうだい」
「ガキにもババアにも毒だぜ」
「それは、味見したらわかるわ」
「そうか」
 俺は、このくそ生意気なガキがどんな反応を見せてくれるのか興味を持った。このチビに合うサイズのグラスなどない。ふとテーブルの端に目をやると、眼鏡クリーナがあった。そのキャップが、ちょうどいいようだ。俺はそれを軽く水ですすぎ、ビールを垂らす。
「飲めよ」
 それを渡してやると、ノーチェは思った通りに一気飲みして咳き込んだ。
「何よ、これ」
「ビール」
「催淫性?」
「まさか。酔っぱらうだけだ」
「ふうん」
「じゃあ、お前はその羽根を、こんな風に動かして飛ぶわけじゃないんだな」
 蝶の羽ばたきような仕草をしてみせる。
「そんなので宇宙を移動できると思ってるの? 馬鹿じゃないの?」
「お前――」
「ノーチェ」
「ノーチェ、お前は宇宙から来たって言うのか?」
「そうよ」
 ノーチェが、空になったキャップを突き出してくる。「もう一杯ちょうだい」
「大丈夫なのか?」
「なんだか、いい感じ」
「今度は一気に飲むんじゃないぞ」
 ノーチェのそれに注いでやる。「で、どこから?」
「どこからって?」
「宇宙の」
「ああ」
 ノーチェがキャップに口をつける。それから天井の一隅を指さした。「あっち」
「あっちって。どこの星とか」
「だから、あっち。説明するの、面倒くさい」
 ノーチェがグラス代わりのキャップを置き、合掌するような仕草をする。だが完全に手を合わせるまでにはいかず、伸ばした指先を離した状態で山形に向かい合わせた。すると、両手のひらの間の空間に青緑色に輝く玉が生まれた。彼女のサイズがサイズなので、小粒の真珠ほどの大きさしかないが、人間の場合だとソフトボールくらいにはなるだろうか。彼女がそれを高く放り上げると、落ちてくることもなくそのまま空中に静止した。
作品名:星のラポール 作家名:泉絵師 遙夏