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和ごよみ短編集

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《其の3》『うたげ』





陽の光がまばゆく照らす縁側も まだ暖かくは感じられず、敷いた座布団に座っておはなし語りのおばあちゃん。孫の菜々花(ななか)の手を両手で包んで話します。

「そしてね、遠くに行くことになった男は、その日庭に咲いた梅の花を見て 言葉を書き残したそうよ」
「ふぅん。なんて?」
「僕がいなくても 綺麗な花を咲かせておくれよ。ってね」
「それで 咲いたの?」
「さあ どうでしょうね。でもその代わりに 行ったところでも梅の木を大事にしたの」
「かわいそう…」
「可哀想? どうして?」
「だって、お庭に咲いた花のこと忘れちゃったもん。近くの綺麗な梅の花を好きになっちゃったんでしょ?」
「お庭の花を見にいけないから、同じように咲いているかなぁって思いながら…」
「写メ送ってもらえば良かったのにね」
おばあちゃんは、少々困った笑いを浮かべましたが、菜々花は にこにこと無邪気におばあちゃんの膝に甘えていました。
「そうそう、庭の梅の花の妖精が 飛んで行ったの」
「えー。あ、わかった。男の人の元カノが、追っかけて行ったんだね」
「まあ、菜々花ちゃんは そんなこと何処で?」

ちょうど、そこに 菜々花のおかあさんが来ました。
「用意できましたよ。菜々花、おばあちゃんと席に着きなさい」
おばあちゃんは、菜々花のおかあさんの顔をじっと見ました。何事かと思い見返す菜々花のおかあさんには さっぱりわけがわかりません。
「いえね…。 時代かしらね」
はぁ…。 首を傾げながらも菜々花のおかあさんは、ふたりをテーブルに促しました。

テーブルの上に用意されたお料理は、色とりどりで、菜々花の雛祭りをにぎやかに祝っているようでした。
「わぁ、可愛い。このまま 飾っておきたぁーい」
「ありがとう。でも おかあさん菜々花に食べて欲しいな。じゃあ写真撮っておこう」
「うん、おとうしゃんにも 見せたい」
「じゃあ、写メで送っておこうね」
菜々花のおかあさんは、スマホで うずらの卵の顔に 薄焼き卵の着物をきた、お寿司のお雛さまを写すと、単身赴任で離れて住んでいる菜々花のおとうさんへメールで送りました。

作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶