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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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忘却の箱

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花火


 高校生のとき、一度だけ男の子と花火に行った。
 中学時代に部活で一緒だった子で、進学して学校は別になったけど、なんとなく会っていた。
 ただ、それだけだった。
 付き合ってるとか、そんな感じは全くなかった。
 何かのきっかけでか花火大会に行こうという話になった。
 当日、その子は遅刻してきた。
 それを謝りもせずに、その子は私を見るなり怒りだした。なんで、浴衣じゃないのかって。
 両親は共働きだし、一人で着付けなんて出来ないじゃない?
 会っていきなり喧嘩した。遅刻して来たくせにって、もう帰るって私は言った。そんな私を、その子は強引に手を引いて人混みをかき分けて行った。
 時間が遅くなったせいで、花火を見る場所なんてなかった。私は背が低いから、高い所に上がる花火以外見えなかった。
 どうにも情けない気分になって、もう帰ろうって言った。私は人混みが苦手だったから。
 しゃあないなって、その子は言った。
 目つぶれよ、と。
 何を言われているのか分からなかった。
 普通でも見えないのに、目までつぶったらもっと見えなくなる。
「いいから。時間がない」
 有無を言わせぬ口ぶりだった。
 その子が、そんな言い方をするのは初めてだった。
 よく分からないまま、私は目を閉じた。
 いきなり脚を広げられて、頭が突っ込まれる。
「つかまってろ」
 抗議する間もなく、体が持ち上げられた。
「見ろよ」
 怒っている暇などなかった。
 ちょうど、フィナーレの花火が眼前に拡がったから。
 鼓膜を破るような大音響、光の乱舞。
 そして、子どものように肩車されていることの恥ずかしさ。
 それが、私の花火の記憶。

 その子と付き合っていたのかどうかは、今でも分からない。
 お互いにそれらしいことを言わないまま、いつの間にか会わなくなっていた。
 古い携帯電話の中に、一枚だけ一緒に撮った写真がある。
 その花火大会の後で撮ったもの。
 少しだけ思い出した、夏の思い出。
作品名:忘却の箱 作家名:泉絵師 遙夏