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オヤジ達の白球 61話~65話

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 「この野郎。素直じゃないなぁ、お前さんも。
 人の親切は素直に受け取るもんだ。
 坂道を登ったらとっととお前を降ろして、そのまま速攻で帰宅するからな」

 「なんだい、つまらない。
 寄っていきなさいよ。お茶かコーヒーくらいなら、入れてあげるから」

 「バカやろう。送りオオカミをわざわざ家に招き入れてどうするつもりだ。
 ありがとうと言って頬にチューして、それで男を送り返すのが
 淑女のふるまいというもんだ」


 「ごめんなさいね。淑女じゃなくって。
 どうせわたしは、えげつないことばかり考えているはしたない女です」
 
 ふんと横を向き、陽子が赤い舌をチョロと出す。

 陽子の家は丘陵地の上にある。
といってもたかだか50メートルほどの高台だ。
それでも眺めはすこぶるよい。
500mほど離れた祐介の家が、手に取るようによく見える。
朝起きるたび、「おはよう」と祐介の家へつぶやくのが陽子の日課だ。

 頂上へ向かってゆるやかに登りはじめた道が、終点ちかくで急坂にかわる。
近所の年寄りたちはこの短い急な登りを、心臓破りの坂と呼ぶ。

 おろしたばかりのスタットレスタイヤの食いつきは、すこぶる良い。
坂道をぐいぐい小気味よく登っていく。
右へゆるく旋回したあと、お年寄りたちが目の敵にする急坂路が迫って来た。
ここをのぼれば高台の頂へ出る。

 (もうひといきだ。ここをのぼり切れば、陽子の家だ)


 (62)へつづく