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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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踏切が下りるまで

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同じ時間に着く、上りと下りの電車。
 彼が上りで、私が下り。
 駅前の踏切で私が乗ってきた電車が通り過ぎるのを待つ。
 遮断機が上がる。
 そして、彼と私はすれ違う。
 踏切の真ん中で。
 運が良ければ、次の急行電車のせいで踏切は下りっ放しになる。
 でも、ほとんどはそうはならない。
 だから、彼と私はすれ違う。
 踏切の真ん中で。
 お互いの顔も見ず。
 人の波の中に、彼の傍を通り抜けた風を探す。
 私はただ、俯いて踏切を渡りきる。
 そうすると、ちょうどまた警報器が鳴り始める。
 その時にはもう、振り返って見ても、線路の向こうに彼の姿はない。
 どこからともなく紅葉が舞って来る秋。
 雪の上がったばかりの冬の朝。
 線路沿いの桜が華やかな春の日。
 雨の降る憂鬱な空の下。
 彼と私はすれ違い続ける。
 彼は私を見ない。
 そして私も、彼を見ない。
 俯いたまま通り過ぎるだけ。
 私は、彼を追うことも、待ち続けることも出来ない。
 遮断機が上がり、また下りるまでだけの、一瞬の恋。
 また明日、明日の朝になれば……
 また朝が来る、そして私たちはすれ違う。
 いつもの時間、いつもの踏切で。
 彼は変わってゆく。
 でも私は変われない。
 変われないままに、ここにいる。
 この踏切が、上がってはまた下りる間だけ。
 私はここにいる。
 あの時からずっと。
 彼が私の血と肉の残りを踏んで行ったあの日から。
作品名:踏切が下りるまで 作家名:泉絵師 遙夏