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時代の端っこから

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 七月終わりの暑いある日、街のそこらじゅうで蝉の鳴き声が夏であることを示すかのようにエコーする。アスファルトの上には逃げ水が見え、街を行く人の挨拶は「暑いでんな」と「そうでんな」。
 大阪の町中にある小さなお寺で親戚一同が集まって一人の人間を囲んで久しぶりの再会に皆で話し合っている。時折笑い声が聞こえるが、一人を除いてみんな黒い服を着て口々に「暑い」を繰り返す。
 僕はその輪の中で寿司を摘まみながらそれぞれの話を聞いていた。ここにいる人はみんな僕より年上で、僕のマイブームである漫画やゲームの話をしても自分に耳よりな情報は得られそうにない。
「まあ、大往生やで」
「そうそう、85まで生きたんやから」
「最期は苦しまんかったんは、よかったのう」
 
 中央の祭壇で北を頭に横たわっているのは、僕のおじいちゃんだ。
 おととい入院先から「その時が来ています」の連絡があり、僕、母さん、姉ちゃんの三人は慌てて病院に向かった。カタールで単身赴任している父さんには連絡したが、まだ戻って来れていない。
 晩年は入退院の繰り返しでみんな覚悟はできていた。おじいちゃんは美津子伯母さんの家族と僕たちに囲まれて精一杯の笑顔をつくって、
「もう、よか……」
そう言い残して静かに息を引き取った。みんなこの時が来るのをわかっていたから取り乱すと言うことはなかった。
 祭壇の中心にあるじいちゃんの写真。最期までしっかりしていて、
「もう、よか……」
と言ったのは自分のことはもう心配せんでいいから、お前らみんな達者でなと言いたかったことはここにいるみんなが共通して認識していることだ。今はもう聞くことができないだけに、その声が今も耳に刻印されたように強烈に残っている。

作品名:時代の端っこから 作家名:八馬八朔