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『掌に絆つないで』第三章

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Act.06 [幽助] 2019年8月7日更新


蔵馬が湖面に己の姿を映した数時間前。
幽助たちは、蔵馬の寝泊まりした塔の一室で彼の髪の毛を発見し妖気計に入れてみたものの、針はクルクルと回ってその方角を決めかねていた。
「これ、壊れてねーか?」
「そんなはずはないよ! なんたって新型で保証書付の妖気計なんだよ!」
幽助に文句を言われながらも、ぼたんは食い下がった。
「じゃあなんでちゃんと方角わかんねーんだ?」
「蔵馬、すっごい遠くに行ってるんじゃないかい?」
「飛影がいたとこよりもか?」
「うーーん………」
持つ者の霊力によって力を発揮する妖気計は、ぼたんの霊力でも遠く離れた飛影の位置を指していた。ところが、蔵馬の位置は示さない。彼らはどこへ向かえばいいかわからず、途方に暮れるよりほかなかった。
「仕方ない……闇雲に探すことも出来んし…」
コエンマは妖気計以外での捜索方法を検討したが、思いつかずに言葉を詰まらせた。
「幽助。なんとか明日、飛影と和解できないのか?」
「オレじゃなくて、飛影次第だろーが。けど、あいつは…わかってくれる……はず。でもなあ……」
先ほどの殺気だった対峙のせいで、幽助は今ひとつ自信が持てないでいた。そこへ、雪菜が口を挟んだ。
「お兄さん、一度は見つかったのですよね?」
「ああ、説得できなかったけどな。明日はこっちに向かってくるはずだ。雪菜ちゃんも、あいつを説得してやってくれ。あんたの言うことなら訊くかもしれねェ」
「ええ…私に出来る限りのことはします。お兄さんは、一体どこにいたんですか?」
「そーだな、思ってたよりは近くにいたけど、どこって言われるとわかんねーな。プーなら知ってるけど、あいつはこっちが言う言葉はわかっても、しゃべれねーからな」
外で会話を聞き取ったのか、霊界獣が一声啼いた。
雪菜は窓から霊界獣を眺め、思案にふけっている。
飛影に会いに行くもつもりかもしれない。幽助はそう直感した。
「ふあ~ぁ」
体力も限界に近づいてきたのか、ぼたんとひなげしは同時にあくびをした。それに気づいて、コエンマが休息を提案。
「なんとしてでも明日には飛影を説得し、蔵馬の捜索にも協力してもらおう。今日のところは休んだほうがいいな」
こうして長い一日が過ぎ、様々な出来事に疲れきった面々は、ほどなく眠りに落ちた。


暗い魔界に輪をかけて闇を運んできた夜が、通りすぎようとしていた頃だった。
巨大な鳥の羽音が聞こえ、幽助は目を覚ました。
窓から覗くと、霊界獣が飛び去っていく姿が見える。おそらく、雪菜を乗せて飛影のもとに向かったのだろう。
無条件でこちらの意向を呑んでくれるほど、飛影も素直じゃない。しかし、妹の頼みとなれば、話は別。
雪菜ちゃん、頼んだぜ……。
今回に限っては他人に頼らざるを得ず、幽助ははがゆさを堪えて霊界獣を見送った。
……あれ?
ふと、コエンマの枕元に置かれた妖気計に目が止まる。
さきほどはまったく一定方向を指さなかった妖気計が、ある方角を指したまま動かない。まだ、内部には蔵馬の毛髪が仕込まれているはずだった。
蔵馬の方角を指してる!
一気に覚醒した幽助は妖気計の方角を確認し、窓から飛び降りて駆け出した。
外はすでに夜の闇が晴れて、微弱な朝の光が射し始めていた。