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楽しい羊一家 その2

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優しい体温


リビングでテレビを見ていたら、急にシオンに首根っこをつかまれた。
「うひゃぁ」
教皇の奇襲に妙な声を上げる貴鬼。宙で腕をジタバタさせるが、シオンの手はそれくらいでは外れない。
「し、シオン様ー!一体何するんですかぁ!?」
慌てる貴鬼を、シオンは軽く一瞥すると、無言で自分の膝の上に寝転ばせた。
所謂、膝枕である。
「え?」
あのシオンが膝枕をするなんて信じられなくて、貴鬼はシオンの固い腿の上で体を強ばらせる。
本当に、一体、何をする気なのだろう。先が読めなくてガタガタ震えていると。
「貴鬼よ、私の膝の上でもテレビは見れよう。耳を上にして寝転べ」
と、穏やかないつもの口調で言う。
厳格なイメージの強いシオンだが、家庭内では良き師匠であり、良き家長であった。
貴鬼にとっては、いつも優しい大好きなおじいちゃんである。
「シオン様?」
「よいから疾くせい。な?」
ペシペシと、貴鬼のおでこを叩く。
教皇としてのシオンしか知らないものが見たら、さぞかし驚くであろう。
それ位、聖域を統べる教皇の行動とは思えなかった。
「はぁい、シオン様」
素直に言う事を聞き、耳を上に向けて横になる。勿論、顔はテレビに向けて。
するとシオンはテレキネシスで綿棒を取り出すと、貴鬼の耳掃除を始める。
予測できなかった行動に、固まる貴鬼。
何でシオン様、オイラの耳掃除してるの?
くすぐったくて、思わず肩をすくめる。
「動くでない。手元が狂う」
「でもシオン様、どうしちゃったんですか?いきなり耳掃除するなんてー」
「先程チラと覗いたら、かなり汚れておったのでな……これ、動くでない」
シオンの手が器用に動いて、耳の中を綺麗にしていく。
それが妙に心地よくて、気持ちよくて、瞼が段々重くなる。
『……まるで……』
自分に親がいたならば、こんな感じなのだろうか。
時折耳たぶに触れるシオンの手が、柔らかくて温かくて、貴鬼の身体から力が抜けていく。
『お父さんかお母さんか、おじいちゃんかおばあちゃんか、わからないけど……』
意識が、遠くなる。
『血のつながった家族がいたら、こうなのかな……』
シオンは綿棒をつかんでいた指を止める。
「ん?」
膝の上の小さな身体から漏れる、寝息。
シオンの口元が、困ったように緩む。
「教皇の膝枕で寝こけるものなど、お前くらいだわ」
孫弟子の額にかかる栗色の髪を、心底愛しそうに指でかきあげる。
シオンは綿棒をくずかごの中に捨てると、テレビの音量を落とした。
「こうなったら、今宵はもう起きぬかもな」
肩で大きく息をした教皇は、テレポーテーションで貴鬼を寝室に送ると、ソファから立ち上がった。
まだ風呂に入っていないのだ。
作品名:楽しい羊一家 その2 作家名:あまみ