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バー・セロニアスへようこそ 後編

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午前0時30分


「今日は本当にお疲れ様。君もいいギタリストだね。ライラが推薦するだけはあるよ」
店の片付けが終わった後、バックヤードで帰り支度をしていたファラオはマスターにそう声をかけられた。
くすぐったそうにファラオは笑うと、
「オル……ライラからはよくヘタクソって馬鹿にされますよ?」
「あの子と比べれば、世の中のほとんどの人間はヘタクソになるだろうねぇ」
「あははははは……」
否定されないところが、ファラオには辛い。
マスターもひとしきり笑った後、手に持っていた少し厚みのある封筒をファラオに向ける。
「今日は代理お疲れ様。これはバイト料だよ」
「あ、ありがとうございます」
ああ、そういえばこれはアルバイトだからきちんと給料が出るのだったな。
当たり前のことを、ファラオは失念していた。
封筒の中身には50ユーロ入っていた。アルバイトにしてはそれなりにいい金額である。
「……いいんですか?こんなに」
「ライラが自分と同額にしてくれって言っていたのでね」
「あいつが……」
あの悪友というか、喧嘩友達というか、敵というか、一言では言い表せない関係の知人の顔を思い浮かべる。
あいつは平気でこういう事をやるから、たちが悪い。
ただ嫌がらせをし続けているのならば、思い切り嫌いになれるのに。
こういう事をやるから、憎み切れない。
『……ったく。これで許されるとは思うなよ』
バイト料を鞄の中にしまうと、店長に今日はお世話になりましたと挨拶してバックヤードを出ようとしたが。
去り際、ファラオは店長に呼び止められた。
「ねぇ、君」
「はい」
「もし君さえよければ、ライラが来られない時にでも、またバイトに来てくれないかな?君くらいの腕の子だったら、いつでも大歓迎だよ。あの演奏を大勢の人に聴かせないなんて、勿体ない」


「……で、結局、僕みたいに不定期に出ることにしたんだ?」
翌日、第二獄・花畑のオルフェの家。
オルフェの言葉を受けたファラオは顔を真っ赤にすると、
「だって。あれだけの口説き文句を受けてみろ。あれで引き受けなかったら、そいつは人間じゃないぞ」
「冥闘士のくせに」
部屋のソファーで寝転がって、DVDを見ていたオルフェはぼそっと呟く。
ファラオは聞き咎めたのかやや目つきを厳しくするが、あのオルフェに通じるわけがない。
「でも、僕があの店でバイトする理由がわかっただろう?」
不良聖闘士に尋ねられたファラオは、首筋を紅くして頷く。
お客の前で音楽を奏で、喝采を受けた時の高揚感。
自分の音楽で人々に笑顔が浮かんだ時のあの幸福感。
体中が熱くなるあの感覚。
言葉ではとても表現できない。
「色々とイヤなことがあったが……」
グラスの中に入った水で、喉を潤す。
「だが、そういうのをさっ引いても、なかなか興奮できる体験だったな」
「今後は、僕がバイトしてても守銭奴言うなよ」
「……留意する」
不服そうに応じるファラオ。
守銭奴呼ばわりするなと言うのなら、せめてハーデス様をパトロンにするのはやめてもらえないだろうかとファラオは思う。
本当にこいつはたちが悪い。
「さて、と」
DVDを止め、オルフェはむっくりとソファーから起き上がる。
そして壁に立てかけてあったマーティンのエレアコが入ったギターケースをつかむと、ファラオに告げた。
「ああ、ファラオ。僕今日これからバイトだから。家から出て」
「はぁ!?」
何を言われたかわからなくて、思わず変な声が出る。
バイトなら、昨日自分が行ったばかりじゃないか!
物言いたそうなファラオに、オルフェは非常に意地の悪い笑いを浮かべると、
「あのバーのギタリストの中で一番上手いのは僕ってことをお客さんに再認識して頂かないとね。もっとも、僕より上のギタリストなんて、この地球上に数えるくらいしかいないだろうけど」
音楽に関しては、傲慢なほどの自信家である。
ファラオは唇の端を引き上げて笑うと、
「面白い。このファラオのギターと貴様のギター、どちらが上かお客様に判断して頂こうではないか」
「僕と勝負する気か?」
「ああ」
そこで二人は、堪え切れないかのように笑った。
その姿はまるで、子供の戯れ合い。
オルフェはギターケースをつかみ直すと、この悪友兼敵兼ライバル兼親友に告げる。
「早く支度してこいよ。何回も往復させたら、カロンが可哀想だからな」
「ああ」
すぐに自宅に戻るファラオ。

今夜はとんでもなくクレイジーな夜になりそうだ。

(終)