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バー・セロニアスへようこそ 前編

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午後6時40分


「リクエストいいですか?」
「ど、どうぞ」
もの柔らかな中にも迫ってくるような迫力のある口調で話し掛けられ、思わず声が上ずる。
「先程ジプシー調のギターを弾いていましたが、ジプシーキングスはできますか?」
「有名どころなら」
「では、『インスピレーション』をお願いします」
よかった。その曲なら知っている。ファーストアルバムに入っているあの曲だ。
丁寧に調弦し、一呼吸置く。そしてあの漣のような、美しくも哀愁のあるメロディを奏で出す。
「ほぉ・・・」
シャカの表情がやや変わる。普段目を閉じている事もあり、シャカは音や音楽にはひどく敏感であった。
「なかなかいいギターを弾くな。曲もよい」
「いい曲でしょう」
ほのかにムウが笑う。シオンが誉めた、あの優雅な微笑み。
「シオン様がよくニホンの時代劇を見るのですが、この曲はそのドラマのテーマ曲なんですよ。『オニヘイハンカチョウ』といいましたか」
「やはり老人は時代劇が好きか」
カップの中に残っていたハーブティを飲み干し、懐から財布を探し始めるシャカ。
ムウも食事を終え紙ナプキンで口を拭うと、シャカに目配せして席を立った。
『こいつら、もう席を立つ気か?胃下垂になるぞ』
一曲終えたファラオは食事を終えた途端に席を立つムウとシャカに、驚きとも呆れとも取れる視線を向けていた。
確かにアジア人は欧米人に比べると異常な位に食事にかける時間が短いが、この二人はいくらなんでも短すぎる!
・・・しかし、そんな視線を向けていたのが悪かった。
「そこの君、君は我々に何か言いたい事でもあるのかね?」
財布を取り出したシャカがかなりきつい口調で、自分達をジッと見つめる浅黒い肌のギタリストに尋ねる。
(元々きつい口調の持ち主なのだが、今回はそれに輪をかけてきつかった)
ムウもシャツのポケットから財布を出しつつ、
「そうですねぇ。先程から我々の行動を随分気に留めていらっしゃったようですし・・・」
翡翠を思わせる澄んだグリーンの目が、剣呑な色をたたえてファラオを見つめている。
「一体どこのどなたですか?我々を警戒なさるという事は、海底なり冥界なりの人間でしょうか?」
「・・・・・・・」
蛇に睨まれたカエルの心境というものを、ファラオは初めて理解した。
わなわなと震えそうになる唇を必死で噛み、耐える。
「え、あの、その・・・・」
駄目だ、まともに言葉を発する事ができない。
何と答えても揚げ足を取られて、こてんぱんにやられる気がする!
「えー、そのー、私はー・・・」
「何だね?いくかね?ポトリと」
シャカの手が懐に入れていた数珠に伸びようとしたその瞬間、カウンターから快活な笑い声が聞こえた。
「お客さん、あんまりうちの新人虐めないで下さいよ!」
「新人?」
ムウの殺気がマスターの一言で霧散した。
いつもの優雅な穏やかさを取り戻すと、レジで会計を待っているマスターに問う。
「新人なのですか?このギタリストの方」
「ええ。いつも来ている子が来られなくなってね。その子の友達のエジプト人が本日ピンチヒッターで来てくれました。ギターの腕は確かなんですけど、あんまり人前で弾いた事ないそうだから、お手柔らかにお願いしますよ」
「その割には我々を見つめる視線は異常だったが?」
シャカの反論に、マスターはあっさり一言。
「ご自分の身なりが、ちょっと異彩を放っている事くらい・・・自覚した方がよろしいのでは?」
マスターの物怖じしないその返答に、ムウが口を押さえてフフフと笑う。
「ああ、そういう事ですか。それは失礼しました」
ムウは柔和で優雅な笑みを浮かべるとファラオに向かって、ペコリと一礼した。
「詰め寄ったりして申し訳ありませんでした。私の方は普通の服装で来たつもりなのですが、連れが少々変わっていましたからねぇ・・・気になるのも仕方ありませんか」
「は、はい・・・」
ごくりと喉が鳴る。マスターは苦笑いしつつシャカに告げた。
「この子がやめてしまったら、お客さんの店への出入りを今後禁止しますよ?ただでさえいいミュージシャン探してくるの大変なんですからね!」
「・・・覚えておく」
シャカは不服そうに黙り込むと財布の中からユーロ紙幣を2枚取り出し、マスターに渡す。
パスタの値段は紙幣1枚で釣りがくる程度なので、
「会計は御一緒ですか?」
「いや、別だ」
「承知しました」
つまり一枚はチップということだ。もしかしたら迷惑料の意味もあるのかも知れない。
ムウもチップを上乗せして会計を済ませた後、ごちそうさまとペコリと一礼する。
「出入り禁止にならないように気をつけますね」
春の日射しを思わせるもの柔らかな笑みを浮かべ、シャカと共に店から去っていく。
二人の姿がドアの向こうに消えた途端、ファラオはギターを抱えたまま腰掛けていた椅子からずり落ち、床の上にへなへなと座り込む。
「・・・た、助かった・・・」
頸動脈がぴくぴくする。心臓が未だに早鐘を打っていて、呼吸が全然落ち着かない。
初めて黄金聖闘士と直に対面したファラオは、同僚や居候の言葉が偽りでない事を知った。
(しかしムウとシャカにしてみれば、食事をしに来ただけであるのに、勝手に意識されてビビられたのだから、あちらこそいい迷惑だろう)
マスターは心配そうにファラオを見つめると、冷たい水の入ったグラスを渡した。
「大丈夫?さっきの二人はたまに来るお客さんなのだけど、どうも雰囲気が変わっていてねぇ。でも悪いお客さんじゃないから、あんまり気にしないで」
「はぁ・・・」
差し出された水を飲み、気分を落ち着かせるかのように大きく呼吸をする。
そしてコップをマスターに返すと、ズボンの埃を払って椅子に腰掛け直し、ギターをチューニングし直す。
そして気分転換のためにU2の『A Man and a Woman』のフレーズを軽く弾きながら、先程のマスターの言葉を頭の中で繰り返す。

『大丈夫?さっきの二人はたまに来るお客さんなのだけど、どうも雰囲気が変わっていてねぇ。でも悪いお客さんじゃないから、あんまり気にしないで』

ちょっと待て。
今ので悪いお客じゃないとは、どういう事だ!?
「マスター、今の二人が悪いお客じゃないとは・・・??」
顔色を蒼褪めさせながら問うファラオに、マスターはあっさりと答える。
「うん。悪いお客さんじゃないよ。お酒を飲んで暴れる事もしないし、支払いを踏み倒す事もないし。ちょっと雰囲気が変わっているけど、それ以外はいいお客さんだよ」
確かに、その言葉は正しい。店としては何も問題のないお客だ。
マスターは他の客の様子を気にしつつ話を続ける。
「さっきのお客さんの同僚の人が常連さんでよく来るのだけど、何人かすごく酒癖の悪い人がいてねぇ。そのお客さん達に比べれば、さっきのお客さん達は仏様のようなものだよ」
「さっきのお客の、同僚が常連?」
「ここの近くに『聖域』というなにかの宗教の総本山があって、そこの関係者の人はうちのお得意さまなのさ。今日はそこの給料日だから、聖域関連のお客さんが結構来るかもね」
「・・・何故給料日を知っているのですか・・・?」
「ツケで飲んでいる人も多いからね。給料日に清算に来るんだよ」