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バー・セロニアスへようこそ 前編

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数日前・2


「で、頼みというのはなんだ?」
「それなんだけど・・・僕が一ヶ月に何日か地上に戻らなくてはいけないのは、ファラオも知っているよね?」
聖闘士でありながら冥界で悠々自適なミュージシャン生活を送っているオルフェであるが、一応聖闘士としての義理を果たすため、一ヶ月の間に一週間だけ地上での『お勤め』をする決まりになっていた。
なお、お勤めの期間はハーデスに琴を聴かせる合間なので、冥界での仕事が疎かになる事もない。
「ああ、ハーデス様とアテナの協定だということは小耳に挟んでいる」
「それでだ。地上に戻った際、僕は音楽修行もかねてアテネ市内のあるバーで、ミュージシャンのアルバイトをしているのだけど、今回1日だけどうしてもアルバイトに行けなくなってしまったんだ」
その話を聞いたファラオは『こいつ、冥界と聖域から給料をもらい、なおかつアルバイトまでしているのか!?』と、オルフェの守銭奴(意味が違う)振りに呆れたのは内緒の話だ。
それはともかく、オルフェの話は続く。
「僕が店に出ると、いつも働いているピアノマンが休暇をとってしまうんだ。それなので」
長い睫に彩られたオルフェの瞳が、ファラオの顔を見つめる。
伏せ目がちのやや憂いを帯びたその表情からは、この男の極悪な本性を全く感じる事ができない。
『この顔に皆騙されるのだな・・・』
人間、他人の事はよく解るものである。
「それなので、ファラオに僕の代わりにバーで演奏して欲しいのだけど、お願いできるかな?」
「私が?」
意外な申し出に素頓狂な声をあげるファラオ。オルフェは深く頷くと、
「そう君が。一応商売で演奏するからね。僕並みに腕の立つミュージシャンじゃないと、こんな事頼めないよ」
「ほほぉ・・・」
ファラオの顔が思わず緩む。あの憂いを帯びた青い瞳でファラオをジッと見つめるオルフェ。
「一生懸命知り合いのミュージシャンを検討したのだけどね、僕の知人の中では君が一番素晴らしい演奏家なんだ。だから、君にしか頼めない」
「なるほど・・・」
オルフェの言葉は、ファラオの自尊心と劣等感と優越感を気持ちよく刺激した。
ハーデスに愛される程の琴の腕の持ち主が、『僕並みに腕の立つミュージシャン』
『僕の知人の中では君が一番素晴らしい演奏家』『君にしか頼めない』と、これでもかと言わんばかりに殺し文句を浴びせてくる。
音楽家としてでも、戦士としてでもファラオをこてんぱんにし、冥界三巨頭や冥王ハーデスを眠らせるほどの最凶、もとい最狂…違った、最強の白銀聖闘士オルフェ。
そのオルフェが、音楽の事で『自分にしか頼めない』と頭を下げている。
これで気持ちよくならない訳がない。
ファラオは笑わないように自制していたようだが、やはり口元が弛んでいる。
それ故に妙な笑顔で、
「そうか、私もハーデス様の使命があるため多忙な身だが、困っている人間に手を貸すのは慈悲深きハーデス様の御心に沿う行為だ。よかろう。私がお前の代役を勤めてやろう」
「本当?ありがとう、ファラオ!」
芙蓉の華のようにオルフェは笑う。
真摯そうな青い瞳が一瞬怪しく光ったのだが、オルフェの口車に乗せられているファラオがそれに気付くはずはなかった。
「それじゃ、○月×日に、アテネ市内のバーセロニアスというバーに午後五時に行って。ライラからの紹介と言えばわかるから。ギターはお店に僕のマーティンのエレアコと、64年製のリッケンバッカーの360の12弦があるけど、もし気に入らなければ自分のギター持っていって?」
「わかった。○月×日だな…」
と、そこでファラオはオルフェがバーに出ない理由が気になったので尋ねてみた。
もしライブやコンサート、サーキットに遊びに行く等といったふざけた理由であったなら、タグホイヤーを入手した後に半殺しにしてやるつもりだったのである。
ファラオの問いを受けたオルフェはほのかに笑う。
「うん・・・その日は師匠と食事する事になったんだ。我々聖闘士は君ら冥闘士と違って、修行して戦士の技を身につけるのだけど…お互い命をかけているからね。師と弟子との間柄って本当に強固なものなんだよ」
「・・・そうか」
聖闘士の師弟関係がどのようなものであるか、ファラオも話だけは聞いている。
以前ゼーロスがアクエリアスを弟子のキグナスの目の前で足蹴にしたところ、キグナスに抹殺されたとか、されないとか。
「それなら仕方ないな。バーの方は私に任せて、お師匠と楽しんできてくれ」
「ありがとう、ファラオ。君は優しいね・・・君がいてくれて、本当によかった」
心からの感謝を述べるオルフェ。今のこの気持ちに偽りはない。
なぜなら、ファラオが代役を勤めてくれてありがたいと心の底から思っているから。
「バーのマスターには、僕から連絡入れておく。バイト料は日払いにしてもらうから、終わった後マスターからもらってね」
「了解した。それにしても・・・」
皮肉っぽい口調と顔でファラオは訊ねる。
「よくマーティンのエレアコと、ビンテージ物のリッケンバッカーを持っていたな。かなり高いだろう、あれ」
リッケンバッカーの360はビートルズのジョージ・ハリスンが愛用していたギターである。
(なのでビートルズマニアは、こぞってリッケンバッカーを入手しようとするらしい)
ちなみにビンテージにこだわらなければ、30万円程で買える。
オルフェの返事は、たった一言。
「僕の音楽経費はほとんどジュデッカ持ちだから」
「そうか、それならいくらでも好きなもの買えるな・・・って・・・ちょっと待て!」
ファラオが椅子を蹴って立ち上がる。ちょっと待て、この聖闘士今聞き捨てならない事を言わなかったか?
「貴様の経費がジュデッカ持ちとはどう言う事だ!!!」
唾を飛ばして怒鳴りまくるファラオに、オルフェは輝くような笑顔を向ける。
その笑顔が綺麗過ぎて、ファラオは非常にむかっ腹が立った。
「マーティンはアメリカ住んでる時にお小遣い貯めて買ったけど、リッケンバッカーはオークションで落としたんだ。ジュデッカ経費でね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ハーデスが『いい音楽を聴くためなら金に糸目は付けない』と言ってくれたからね。まぁ、持つべきものはいいスポンサーだよ♪」
ファラオの浅黒いおでこに、青筋三本。怒りのあまり、おかっぱが逆立つ。
「き、貴様、オルフェッ!!今すぐ地上に帰れッ!!もう二度と戻ってくるなッ!!」
「僕の事を罠にはめて帰れなくしたのは、どこの誰だよ」
「クッ・・・」
そこを突っ込まれると、返す言葉が無くなるファラオ。一応言い訳はある。パンドラの命令だったのだ。
しかしそれを言ってしまうと、「パンドラが僕の琴の腕に惚れ込んだせいだからなのだが。
冥界にはミュージシャンいないの?」と返され、自分の傷口に塩を塗り込むはめになる。
『絶対にいつか、オルフェを音楽でぎゃふんと言わせてやる』
考え方によっては、このバーでのアルバイトは自分の音楽の腕やセンスを磨くためのいい経験になる。
『もしかしたら、バーのマスターが私の方を気に入るかも知れんしな』
そう考えると、今回のアルバイトはチャンスかも知れない。
オルフェに勝つチャンスでもあるし、音楽家の自分を高めるための、大きなチャンス。