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短編集52(過去作品)

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 その話を思い出したのは、工場を見ながら土手に座っている青年の姿を見た時だった。青年は工場を見ながら何かを待っている。自分が早く来過ぎてしまったために、ゆっくり待っているしかなかったのだ。何を待っているか分からないが、同じ光景を以前にも見たと思ったことで、目の前に本当にその人が座っていたのかが今となっては自信がない。
――過ぎてしまった時間を見つめているのかも知れない――
 数分のずれがそこにあったのかも知れない。煙突からの煤煙が消えているはずの時間なのに、まだモクモクと上がっている。青年も煙を目で追いかけていた。その空間だけが送れてやってきたのだ。彼が光って見えたのは、夕日の屈折の成せる業だけではなく、夢の世界で垣間見た記憶がよみがえってきているからかも知れない。
 友達の家に行くために住宅街の角を曲がろうとした時、目の前を歩いている自分。これも遅れてきた自分がいるからなのだ。
 どの空間に自分がいるかというのは、時間の制御によって決まってくる。それが少しずれたり歪んだりすることで、もう一人の自分を同じ空間で見ることも可能ではないだろうか。
 母親のトラウマ、それが遺伝している。
――雷――
 それは、光に対して音が遅れてやってくる。音と光の速度の違いなのだが、時間を駆け抜けるスピードに対しての認識はまったくない。あまりにも早いスピードで時間という空間を駆け抜けていることで、違う時間が見えないとすれば……。
 トラウマを意識し、時間に対していつも無意識に何かを考えている静香は、音で時間の歪みを感じた。
 今まで雷を実際に見たことがなかったと思っていた静香だったが、雷を近くで感じたことが母親からの遺伝により、雷以外の音と時間のずれを感じる能力が備わってしまったのかも知れない。
 だが、そのことに気付いてしまったことにより、余計なことを考えないようになった。それが幸いしてか、それからは音に対しての意識はまったくなくなった。
 すべてが夢のように消えてしまったのである。
――どうして私の名前って静香なのかしら――
 という母親の思いの篭った名前への疑問だけが残ったのだった……。

                (  完  )

作品名:短編集52(過去作品) 作家名:森本晃次